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「あ、あの、逸見(いつみ)さんっ」 名前を呼ばれて振り返ると、モジモジと肩を小刻みに揺らす女性社員から、両手で書類を差し出される。 「こちら、頼まれていた資料になりますっ」 「ああ、早いね。助かったよ、ありがとう」 「い、いえ、そんなっ。あの、また何かあれば遠慮なく言ってくださいね!」 そう言って、女性社員はサササッと早足で自分のデスクへと戻っていった。 「相変わらず、(たくみ)は女性社員との接し方が上手いなあ」 そう話し掛けてきたのは、隣のデスクで同期社員でもある、水嶋(みずしま) 拓也(たくや)。 水嶋は頬杖をつき、「いいなぁ。俺もモテたいなぁ」などとボヤいている。 「別に特別なことは何もしてないけどな」 「くそっ、モテることについては否定しないのな! ついでに教えてやると、お前みたいなイケメンは、女の子と目を合わせて笑って会話するだけでモテるんだよ! あー、俺も女の子をモジモジさせてみてぇ! おっと、いけね。そろそろ取引先行かねーと」 マシンガンのように早口でそう言うと、水嶋はバッとデスク周りを片付け、そのまま慌ただしく営業室を出て行った。 壁掛け時計に目を向けると、そろそろ昼時。 手元の書類の整理をしてから、俺は昼休憩に入ることにした。
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