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1.
「あ、あの、逸見さんっ」
名前を呼ばれて振り返ると、モジモジと肩を小刻みに揺らす女性社員から、両手で書類を差し出される。
「こちら、頼まれていた資料になりますっ」
「ああ、早いね。助かったよ、ありがとう」
「い、いえ、そんなっ。あの、また何かあれば遠慮なく言ってくださいね!」
そう言って、女性社員はサササッと早足で自分のデスクへと戻っていった。
「相変わらず、巧は女性社員との接し方が上手いなあ」
そう話し掛けてきたのは、隣のデスクで同期社員でもある、水嶋 拓也。
水嶋は頬杖をつき、「いいなぁ。俺もモテたいなぁ」などとボヤいている。
「別に特別なことは何もしてないけどな」
「くそっ、モテることについては否定しないのな! ついでに教えてやると、お前みたいなイケメンは、女の子と目を合わせて笑って会話するだけでモテるんだよ! あー、俺も女の子をモジモジさせてみてぇ! おっと、いけね。そろそろ取引先行かねーと」
マシンガンのように早口でそう言うと、水嶋はバッとデスク周りを片付け、そのまま慌ただしく営業室を出て行った。
壁掛け時計に目を向けると、そろそろ昼時。
手元の書類の整理をしてから、俺は昼休憩に入ることにした。
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