さんぱいしゃ

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さんぱいしゃ

 ゴキ子の飛行速度はかなりのものだった。龍神の祠は黄金ごと崩れ落ちたが、間一髪で光の外へと飛び出す。周りの景色が森に変わり、俺は年甲斐もなく歓声を上げた。 「よし!!やったぞゴキ子!!このまま街まで飛び抜けてくれ!!」 「無茶言わないでよ!!むしろもう限界だから!!」  言い終わる前に六本の足が解かれ、草の萌える地面へと叩き落とされる。 「どわっ!!ゴキ子てめぇ!!」 「喚いてないで逃げるわよ!!森はまだ龍神様の結界内なんだから!!」 「何!?」  思わず空を見上げたが、直接襲ってきたのは龍神ではなかった。 「な、何だよお前ら…」  ギラギラと目を金色に光らせ一斉に俺とゴキ子を振り返ったのは、龍神の祠を目指して集まった参拝者たちだ。さっきまで粛々と歩いていたのが嘘のように、我を忘れて我武者羅に飛び掛かってきた。 「まずい!!ゴキ子!!」 「こっちよ!!」  ゴキ子は触覚で方向を定めると地面に這いつくばり、まさにゴキブリらしく六本足で高速移動した。 「うおっ!!は、速え!!待ってくれ!!」 「急いで!!狙われてるのはあなたなんだから!!」 「そんなに早く走れるか!!乗せろお!!」  背に腹は変えられぬ。俺は渾身のジャンプでゴキ子の背に飛び乗った。 「キャ!!ちょっとレディに馬乗りになるなんて何て破廉恥な男なの!?」 「いいから行け!!魚人がきたぞ!!」 「前からも来てるわ!!口裂け…じゃないわね、顔裂け女よ!!」  顔裂け女は「キレイな女は、死ネばイイのぉ!!」と叫びながら走り来る。どうでもいいが俺とゴキ子に最も縁のない妄言がすぎる。ゴキ子は持ち前の素早さで次々と迫り来る怪異をかわしながら木々を縫った。 「とにかく神在山から離れないと!!ハナコなら何とかしてくれるかもしれないワ!!」 「花子だと!?あんな奴信用できるかよ!!」 「襲ってきてるのは怪異ばかりよ!!きっとハナコは正気のはずだわ!!」  確かに追ってくる中に神様らしき姿はない。かといって俺は花子そのものを疑っている。 「船着場だ!!船着場を目指せゴキ子!!こんな馬鹿げた祭りにいつまでも付き合ってられるか!!」 「でも…キャ!!」 「どわ!?」  俺たちの目の前に、巨大な塊が落ちてくる。顔面がないくせにツノの生えた鬼野郎だ。しかも背後からはあの電車のようにでかい真っ黒芋虫までが追いついてきた。  
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