鼠火琴

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(………敵国の魔術師だ。) 蓮はカッと目を見開いた。 自らの幽霊を創造し、魂を乗せて飛ばす魔術。有名な技だ。しかし本当に使える者を見たことはなかった。なぜなら、蓮の国ではこれを操る魔術師は一人もいないから。 敵の国で、つい十年前に開発されたばかりだというのだ。…この情報に間違いはない。この前の戦争で、蓮たちの国はこの術によって多くの兵を失い、敗れたのだ。 魔術師一人は、兵士の千人。 そんな古い比喩言葉が、現実になってしまった。 倒しても倒しても展開される幽霊。むこうは千回術を行使して、こちらの千人と刺し違えることができる。 (…だけど。) 蓮は心臓が真っ白になりそうだった。 知っている。 あの術は破ることができる。 やり方があるのだ。 一人の子供の髪を七日かけて鎖に編む。そうしてできた綱には呪が籠る。あとはただ、それを魔術師の作り出した幽霊の心臓に突き立てるのみ。そうすれば、幽霊の持ち主の魂は永遠に逃げられなくなる。子供の鎖編みの髪の毛に、幽霊に宿していた魂が吸い込まれてしまうからだ。代償として、子供は赤の他人の魂を縛り付ける贄となって命を落とす。 非人道的である。 そういう理由で政府が禁じて、そしてもっぱらの噂では、孤児たちが義勇兵としてひそかに戦場へ赴いていたという。強力な封印術。 ————蓮の茶髪は、いつでも呪を帯びた鎖編みだった。 (…お父さん、お母さん。) もう、涙も枯れた。二人の両親は戦場で斃れた。蓮を残して、逝ってしまった。死んでしまった。彼らはもう二度と戻ってこない。 別に、敵討ちがしたいわけではない。両親の死因などは知らない。ただ、彼らは死んでしまった。それだけ。それを知ろうとも思わないし、復讐なんてものに意味があるとは思えない。 …それでも、蓮は魔術師を恨む。彼らのせいで蓮の国は負け、少しの土地を失い、多くの子が孤児になった。 (魔術師一人は、兵士の千人。一人を倒せば、千人を救う。) 蓮の瞳が血走った。
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