水電車

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気温30°を軽く超えているだろう、真夏日。 私たちが急いで飛び乗った電車はレトロなんて綺麗な響きが通用しない程のオンボロで、もちろん冷房機能など存在するはずがない。 その灼熱の電車は寂れた無人駅を今、通過した。 「ねぇ、これってどういう状況……卯美(うみ)?」 そう隣のあなたは私に問いた。 真っ直ぐな瞳で。 客は私たち2人だけだというのにこんなにも暑いものだろうか。 この体感する暑さは気温のせい__ オンボロ電車のせい__ 決して、彼の言葉に動揺したから暑いのではない 「暑いね……」 誤魔化した。 口が勝手に話を逸らした。 「暑いねじゃなくてさ」 ………………。 「細かいことは別に……いいじゃない?」 また逸らした。話も目も。彼から。 電車がゆらゆら揺れる。 その揺れに合わせて私の心も揺れている。 ああ、早く着いてくれないだろうか目的地に。 電車の窓から見える景色がプロペラの回転のように素早く変わるがまだ目的地にはほど遠い。 「卯美。聞いて。僕ね、君が急に居なくなってから何もできなくなった。もう全部どうでも良くなった。消えてしまった方がましだと思った」 次から次へと並べられる私に対しての彼の思い。 だが、私には嬉しいという気持ちの鱗片など何処にもなかった。 優しさゆえの言葉だと分かってはいる。 でもなぜか責められていると感じてしまう。 だから、私にできることは 「ごめん」 謝ることしかなかった。
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