かわいいぼくちゃん

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 事後カンファレンスも終了。  洗濯し上がったエプロンも干し終わり、今日のパート面子の中で一番の下っ端である私は、お遣いに出された。保健センターの事業相談カウンターの奥、保健師さんたちのデスクまで行って「何か仕事はないか」とお伺いを立てるのだ。  待合に座っている相談者さんらの前を通り、相談カウンターの端の隙間からコッソリと内に入り込む。あと1時間で相談受付時間は終わりだから、待っている人も2、3人だった。並んでいるデスクを見渡して、雇いあげの取りまとめをしている岩合保健師を捕捉する。 「終業時間まであと四十分くらいあるんですけど、出来そうな仕事ありますか?」  パソコンとにらめっこして書類を作成していたらしい岩合さんは、私の顔を見るとニッコリ笑った。 「あ! ありがと! あのね、精神の報告書類上がってるから、それを地区担当ごとに振り分けて欲しいんだ」  ああ、いつものあの仕事か、と思い当たった私は、立ち上がって歩き出した岩合さんについて行こうとした。 「あのっ! それでは困るんですよ!」  ふいにカウンターの方から金切声に近い女性の声がして、私と岩合さんは思わずそちらを向く。カウンターには、保健師の深川さんの背中があった。金切声の主はその向かいの相談者のものらしい。私と岩合さんは黙って目配せをすると、再び動き出した。バックヤードにいる者は一々反応しないのが鉄則だ。  私は、岩合さんに渡された書類の入った段ボール箱を抱え、パート仲間が控えている相談室の前に立った。 「みなさーん! お仕事です」 「ああ、はいよ!」  中から山田さんが出てきて扉をおさえてくれた。 「いつもの振り分けかい」 「そうです」  背後で聞き覚えのある金切り声がして、続いてそれをなだめる深川さんの声。慌ただしくばたんと閉じた扉の音で、あの相談者は他の相談室に引き込まれたのだと察した。  ああ、カウンターでは終わらない話になっちゃったんだなぁ、とチラリと考えたが、コチラには関係の無い話だ。私は段ボールをテーブルの上に置き、地区担当者毎のファイルと、二か月分くらい溜まっていた管轄内の事業報告書の束を取り出し始めた。
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