偽物リンドバーグの飛んだあと

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 かつて、男は空軍に属していた。  世界中を巻き込んだ大戦争の末に、王政とともに消えていった国の空軍だった。  街は戦争の痕跡を汚れとして忘れ去り、かつてそこで生きた人々を思い出すのは、このバラックだけになっている。  彼の部隊は停戦後に起こった内乱で二つに分かれ、戦争の終結後も仲間同士で争い、そして消滅した。  男が生き残ったのは運が悪かった。  内乱が終わる直前の空戦で負傷し、最後の出撃から置き去りにされてしまったのだ。  隊の仲間はほとんど全員が戦死か、未帰還になっている。  負傷して生き残ってしまった飛行機乗りたちに怠けることは許されなかった。怠け者たちの代わりに食料を運び、手紙を届け、時折娯楽として曲芸飛行を強いられた。  特に負傷の重かった男以外は早くに復帰し、過酷な空を飛び続け、やがて全員が何かしらの事故で還らなかった。  仲間たちとの思い出をなくしてしまわないために、男は空を飛んでいる。
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