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空がひどく開けていた頃の話をしよう。
これはそう古い話でもない。母親が「昔々」と子供に話し始めるほどでもなく、塹壕の兵隊が語る故郷の話ほど最近でもない。
ただその時代を記憶するほどの、特別な何かがなかっただけだ。
その頃、世界のみんなは怠け者になっていた。
山は人が登らないからゴミが増えなくなったし、戦場ではチェスが勝敗を決める。
みんなが怠け者になった世界では空は開けていて、誰も爆弾を落としたり宣伝のためにバルーンを飛ばすことはなくなった。
だから空を飛ぶのは鳥や蝶くらいのもので、ときどき小さな飛行機を引っ張り出しては、孤独な空を旅する物好きな冒険飛行家気取りが一人いるだけだった。
男は街のみんなから、『リンドバーグ』と呼ばれていた。
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