味のしないかき氷

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「き、君は誰••••••?章の友達?」 「うーん、違うかなぁ」 美味しそうにかき氷を頬張る姿は可愛らしいけれど、何処と無く不気味な雰囲気を漂わせていた。それにやけに色が白い。消えてしまいそうな容姿に長い黒髪が映えていた。鮮やかな黄色のシロップがその白いワンピースに落ちてしまわないか、変に心配してしまう。 「じゃあ••••••君は誰なの?」 「迷子」 「え?」 「私、迷子なの。お父さんとお母さんと、あと弟を探しているの。ずっと探してるんだけど、居ないの」 僕は辺りを見渡してみる。僕と章達、そして隣の少女以外誰もいない空間。居たとしたら、入口前でぶつかってしまった男の人ぐらいだっただろうか。あの人はこの中には来なかったから、今は何処に居るのか分からない。 隣の少女は僕に仄暗い視線をやる。 「ねぇ、食べないの?」 「た、食べるよ」 「早く食べてよ。私、凄く寂しいから。弟はね、メロン味のかき氷が1番好きなの。だから食べて」 早口で捲し立てながら、口だけ微笑むように歪めて、僕にかき氷を食べるように迫ってくる。その勢いに負けて僕はスプーンで1口食べた。 ――。 「美味しい?」 「う、うん。美味しいよ••••••」 無味無臭のかき氷は水の味も無く、ただの虚空を食べている気分だった。
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