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「殺ったのか?」
背後からの声が、立ち昇る硝煙の匂いをかき消していく。
「ああ」
返事をしながら的場は、構えていた狙撃銃を地面に下ろした。狙撃態勢を解くと、全身から緊張感が抜けていった。
「こんだけ離れてちゃ、ほんとうに殺ったのかどうかなんてわかりゃしねえな。殺ってもないのに始末したとか言い張って、金だけふんだくるつもりじゃねえだろうな?」
茶化すようににやけた顔つきの近藤だが、目は笑っていなかった。
「いま俺が仕留めたターゲットとは知り合いなんだろ?電話でもして確認してみればどうだ?もっとも本人が電話にでることはないだろうがな」
「たまたま用事があって出れないだけかもしれん」
「随分と疑り深いんだな」
ため息まじりに的場は言った。
「そりゃそうさ。殺し屋なんて稼業をやってれば疑り深くもなるってもんだ。お前だってそうだろう?誰だってそうさ。殺し屋なんてもんは皆おなじだ」
共犯者に語りかけるように、近藤のその言葉にはかすかな親密感が込められていた。
「俺にはわからん」
素っ気なく的場は応じた。実際、その言葉は本音だった。的場の記憶を探ってみても、自分以外の他の殺し屋の情報なんて存在しない。殺し屋同士が横のつながりを持つことなど滅多にはないだろうし、まして今回のように、殺し屋が殺し屋に殺しの依頼する、なんていうケースはきわめて稀なケースだろう。
殺し屋が誰かを殺したいのであれば、自分でやればいい。その方が手っ取り早いし、金もかからない。自分の腕前に自信のない殺し屋なんているわけがないし、もしいるとすればそんな奴はとっくに命を落としているはずだ。
だからこそ近藤から依頼を受けた時は、からかわれているのかと的場は思った。冗談にしても性質(たち)が悪い。さっさとお引き取り願おうとしたが、近藤は依頼を受けてもらうまでは梃子でも動こうとはせず、仕方なく話だけは聞くことにした。
聞くだけ聞いた結果、近藤の依頼が冗談ではないとわかったので、的場はその依頼を受けることにした。奇妙な依頼ではあったが、破格の依頼料に釣られることに躊躇はなかった。
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