8人が本棚に入れています
本棚に追加
あの味をもう一度
次の日。
「じゃあ、後でね。いってきます。」
「あぁ、いってらっしゃい。」
娘を見送った後、俺は書斎を整理していた。
捨てずに取っておいた本が溜まってきたため、午前中に終わる範囲で作業をしていく。
脚立の上に立ち、本を取り出す。
その時、本の間から何かメモのようなものが落ちた。
「ん、何だこれ?」
拾い上げると、そこには1つのレシピが書かれていた。
-特製激ウマオムライス-。
これは。
妻が俺に初めて振る舞ってくれて、俺が一番気に入っていた、妻の料理だ。
こんな形でレシピが見つかるなんて。
妻がいなくなった後、俺は妻の料理を再現しようと、何度かオムライスを作った。
しかし、どうやっても、妻の作ってくれたオムライスのようにはならなかった。
それ以前に、俺はオムライスをうまく作ることすらままならなかった。
だけど今、ここにレシピがある。
それに、理穂がいる。
あの味をもう一度食べたい。
理穂にも、食べて貰いたい。
俺は、理穂に妻のオムライスを作って貰うことにした。
墓参りが終わって、家に帰って来た。
一息着いた後、ご飯を炊いて準備を始めた。
「このレシピ、凄く細かいところまで書いてある。手順通りに作れるかなぁ。」
「理穂なら出来るよ。毎日あんなに美味しい料理が作れるんだから。」
「頑張って作ってみる。」
買ってきた材料をキッチンに用意して、レシピを見ながら調理をする。
「人参、ピーマンに鶏肉、椎茸と、、、。」
材料を切っていき、順番に具材を入れ、フライパンで炒める。
そこに赤ワインとケチャップ、ソースを入れた後、オリーブオイルを絡めた白米を入れ、調味料を加えてさらに炒めていく。
オムライスの完成が待ち遠しい。
とても、ドキドキする。
「何かおいしそうな匂いしてきた。」
理穂が匂いに惹かれる。
この香りは。
赤ワインの香ばしい匂いがした。
妻の顔が思い浮かぶ。
あの日、君が作ってくれたオムライス。
娘の理穂が、再現してくれそうです。
理穂も手一杯なほどの、短時間での多くの作業が続く。
皿に炒めたケチャップライスと盛り付け、フタをする。
続けて、隣で暖めておいたフライパンにバターを引き、溶いた卵と白だしを混ぜて、入れていく。
「白だし入れるんだね。早く食べてみたい。」
卵がふっくらしたタイミングでケチャップライスに卵を乗せ、ケチャップをかけていく。
「出来た。」
白い皿に盛られた、懐かしい香りの、ふわふわのオムライスが完成した。
その絵はまさに妻の料理そのものだった。
「お父さん、先食べて良いよ。」
理穂がこちらを見て言った。
「ありがとう。いただきます。」
スプーンを縦にして、卵を切り込んでいく。
中から、とろっとした卵の汁が出てきた。
それと同時に、白だしの香りがぐっと漂ってくる。
部屋の電気に反射して、卵がキラキラと輝いている。
俺は、ゆっくりとスプーンに乗ったオムライスを口に運んだ。
あぁ、これだ。
俺の、一番気に入っていた妻の料理。
まさに、それだった。
あの日、君と食べたオムライス。
思わず美味しいと声をあげて、妻が照れていた。
懐かしい香り。
そして、懐かしいこの味。
色々なものが、込み上げてくる。
「うううっ、美味いっ。美味いっ、ううっ、。」
机の上に、涙がポタポタと落ちた。
「え、ちょ、お父さん?」
「ああっ、すまんな、っっ、昔食べたお母さんのオムライスの味にあまりにもそっくりでな。美味くて、懐かしくて、。」
10年の時を経て、あの時の味を、娘の理穂が再現してくれました。
ありがとう。
理穂。
次の日。
「お父さん、私やっぱり料理学校行ってみたい。今日さ、丁度近くの料理学校で説明会やっててさ、お昼ご飯食べたら一緒に行こう。」
「うん。行こうか。」
娘は料理に興味を持ったようで、料理学校に行きたいようだ。
「お父さん、今日のお昼ご飯は何が食べたい?」
父と娘で一緒に食べるお昼ご飯。
これが良いな。
「卵と白だしと鶏肉があるなら、こんなのはどうだ?」
-親子丼-。
最初のコメントを投稿しよう!