あの味をもう一度

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あの味をもう一度

次の日。 「じゃあ、後でね。いってきます。」 「あぁ、いってらっしゃい。」 娘を見送った後、俺は書斎を整理していた。 捨てずに取っておいた本が溜まってきたため、午前中に終わる範囲で作業をしていく。 脚立の上に立ち、本を取り出す。 その時、本の間から何かメモのようなものが落ちた。 「ん、何だこれ?」 拾い上げると、そこには1つのレシピが書かれていた。 -特製激ウマオムライス-。 これは。 妻が俺に初めて振る舞ってくれて、俺が一番気に入っていた、妻の料理だ。 こんな形でレシピが見つかるなんて。 妻がいなくなった後、俺は妻の料理を再現しようと、何度かオムライスを作った。 しかし、どうやっても、妻の作ってくれたオムライスのようにはならなかった。 それ以前に、俺はオムライスをうまく作ることすらままならなかった。 だけど今、ここにレシピがある。 それに、理穂がいる。 あの味をもう一度食べたい。 理穂にも、食べて貰いたい。 俺は、理穂に妻のオムライスを作って貰うことにした。 墓参りが終わって、家に帰って来た。 一息着いた後、ご飯を炊いて準備を始めた。 「このレシピ、凄く細かいところまで書いてある。手順通りに作れるかなぁ。」 「理穂なら出来るよ。毎日あんなに美味しい料理が作れるんだから。」 「頑張って作ってみる。」 買ってきた材料をキッチンに用意して、レシピを見ながら調理をする。 「人参、ピーマンに鶏肉、椎茸と、、、。」  材料を切っていき、順番に具材を入れ、フライパンで炒める。 そこに赤ワインとケチャップ、ソースを入れた後、オリーブオイルを絡めた白米を入れ、調味料を加えてさらに炒めていく。 オムライスの完成が待ち遠しい。 とても、ドキドキする。 「何かおいしそうな匂いしてきた。」 理穂が匂いに惹かれる。 この香りは。 赤ワインの香ばしい匂いがした。 妻の顔が思い浮かぶ。 あの日、君が作ってくれたオムライス。 娘の理穂が、再現してくれそうです。 理穂も手一杯なほどの、短時間での多くの作業が続く。 皿に炒めたケチャップライスと盛り付け、フタをする。 続けて、隣で暖めておいたフライパンにバターを引き、溶いた卵と白だしを混ぜて、入れていく。 「白だし入れるんだね。早く食べてみたい。」 卵がふっくらしたタイミングでケチャップライスに卵を乗せ、ケチャップをかけていく。 「出来た。」 白い皿に盛られた、懐かしい香りの、ふわふわのオムライスが完成した。 その絵はまさに妻の料理そのものだった。 「お父さん、先食べて良いよ。」 理穂がこちらを見て言った。 「ありがとう。いただきます。」 スプーンを縦にして、卵を切り込んでいく。 中から、とろっとした卵の汁が出てきた。 それと同時に、白だしの香りがぐっと漂ってくる。 部屋の電気に反射して、卵がキラキラと輝いている。 俺は、ゆっくりとスプーンに乗ったオムライスを口に運んだ。 あぁ、これだ。 俺の、一番気に入っていた妻の料理。 まさに、それだった。 あの日、君と食べたオムライス。 思わず美味しいと声をあげて、妻が照れていた。 懐かしい香り。 そして、懐かしいこの味。 色々なものが、込み上げてくる。 「うううっ、美味いっ。美味いっ、ううっ、。」 机の上に、涙がポタポタと落ちた。 「え、ちょ、お父さん?」 「ああっ、すまんな、っっ、昔食べたお母さんのオムライスの味にあまりにもそっくりでな。美味くて、懐かしくて、。」 10年の時を経て、あの時の味を、娘の理穂が再現してくれました。 ありがとう。 理穂。 次の日。 「お父さん、私やっぱり料理学校行ってみたい。今日さ、丁度近くの料理学校で説明会やっててさ、お昼ご飯食べたら一緒に行こう。」 「うん。行こうか。」 娘は料理に興味を持ったようで、料理学校に行きたいようだ。 「お父さん、今日のお昼ご飯は何が食べたい?」 父と娘で一緒に食べるお昼ご飯。 これが良いな。 「卵と白だしと鶏肉があるなら、こんなのはどうだ?」 -親子丼-。
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