思い出の料理

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思い出の料理

「お父さん、朝ご飯出来たよ。」 「あぁ、ありがとう。今行く。」 会社へ行く支度をして、俺は一階へと階段を降りていく。 「お、今日は目玉焼きか。美味しそうだな。」 「奮発してみたよ。さ、冷めないうちに食べよ食べよ。」 席に着き、2人で向かい合って、手を合わせる。 「いただきます。」 トーストに目玉焼きを乗せて、口へ運ぶ。 時刻は7時30分。 今日は余裕があるな。 朝食を食べ終わり、食器を洗って片付ける。 娘の理穂も学校へ行く支度をする。 「じゃあお父さん、行こっか。」 「あぁ。と、その前に。」 俺は仏壇の前で正座をして、目をつぶって手を合わせた。 「さ、行こうか。」 「うん。」 俺は、理穂と一緒に家を出た。 うちには、妻がいない。 10年前、事故で妻を失った。 突然の出来事だった。 その時まだ幼かった娘は、母のことをよく覚えていない。 俺は悲しみにくれていたが、その日から娘を大切に守り、大切に育て上げようと決めた。 それから10年が経って、娘は今も元気に育ってくれている。 今日も夜7時に会社が終わって、そのまま帰宅した。 「ただいま。」 「お帰り、お父さん。」 いつものように玄関で理穂が出迎えてくれる。 「今日はね、グラタン作ったよ。」 「グラタンか。理穂はどんどん料理が上手になるな。」 「えへへ、レシピとか見て練習してるんだよ。」 「凄いね。そのうちどんな料理でも作れるようになりそうだな。」 照れる理穂の姿を見て、俺は妻の面影を感じた。 初めて妻が料理を振る舞ってくれた時。 君は同じように照れた顔をしていた。 あの時食べた料理は-。 「いただきます。」 今日も2人で、夕食を食べる。 「理穂は料理学校とか行ってみるのはどうだ?」 「少し調べてみたけど、料理学校まではまだ考えてないや。」 「そっか。ゆっくり決めると良いよ。」 「うん。」 熱々のグラタンを、はふはふと息を吹き掛けながら、食べる。 目玉焼きに、グラタン、。卵を使う料理って結構あるな。 妻も、卵料理が好きだったな。 中でも特に、一番好きだったのは-。 「ごちそうさまでした。」 夕食の片付けも終わり、2人はそれぞれ部屋でくつろいでいた。 明日は土曜日、休日だ。 俺は理穂と、午後から妻の墓参りに行く。 とはいっても、理穂は午前中だけ学校があるため、途中で合流することになる。 1時間ほど部屋でゆっくりした後、風呂と寝る支度を済ませて俺はベッドに入った。
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