思い切り噛んで、抱きしめて

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 睦月は恍惚とした表情を浮かべ、指を何度も噛んだ。顔をのけぞらせ、身体の奥から湧き上がってくる甘い感覚に意識を静めようとしたそのとき、ベランダのアルミ製のドアが開く音が聞こえた。 「睦月、いる?」  睦月の意識は、その声によって現実に引き戻された。  もう少しだったのに。いつも(はな)は邪魔をする。 「やっぱり、またしてる。ずるい」  ため息交じりに言うその声にも熱が含まれている。睦月よりも頭一つ分背が高い彼女は背をかがめるようにしてドアをくぐり、睦月の正面に立った。睦月が口に咥えていた手を引き、やや乱暴に睦月の視線を固定した。 「先に一人ではじめないで。ずるい」  彼女の夜にも似た瞳の中に睦月が映りこむ。 「はなぁ、うぅん、おかえり。英」  睦月は口に溜まった唾液を飲み下し、彼女に笑顔を投げかけた。英は口角をあげるだけの笑みを返す。彼女は、目線はそのままに睦月の手を包み、指に残る噛み痕をなであげた。  優しいその指先は睦月を気づかっているようにも思える。けれど、そんなもの睦月はほしくなかった。ほしいものはいつだって決まっている。 「噛んで」
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