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睦月は焦る声を抑えながら、英に指を差し出した。そのとたん英は目にいたずらっ子のような幼さを浮かべた。ゆっくりと弧を描き睦月の手を口元にあてがう。英の少し大きい前歯が月光を受けて白く光る。
「はやく」
はやく噛んでほしい。その様子を嘲笑うかのように英は目を細めながら、歯で皮膚を引っ張るように噛んだ。睦月はこらえきれずに嬌声をあげた。膝が震えていた。先ほど睦月がつけた痕をなぞるようにして、英はなんども指を噛んだ。腹よりももっと奥から、甘い痺れが徐々に上へと登ってくる。冷たいはずの夜風が二人の頬に温く当たって周囲に溶けた。周りの気温も心なしか上がったような感じがしていた。
睦月は熱しか感じていなかった。咥えられている指。弾力のあるざらつく舌。固い歯。皮膚が破られる感覚とそこから出ている血。すべてが熱い。このまま火傷してしまいそうだ。どうせなら身を焦がしてしまいたい。
もっと、噛んで。
しかし、英は唐突に噛むのをやめた。まただ。英は血の出た指を口から離すと、愛おし気に眺めはじめた。
「やめないでよ」
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