思い切り噛んで、抱きしめて

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 英は噛むことではなく、流血が好きなだけだ。血を見るための手段として、睦月が「噛む」ことを指定しているから噛んでいる。そのため英は血が出るまで噛むことをやめず、血が出ると噛むことをやめる。  一緒に住み始めてからの三ヵ月というもの、何度このやり取りをしたのだろう。 「わかったよ。噛むから、泣かないで」  結局はいつも英が折れる。 「……泣いてない」  気丈に言いながらも、英に唇で涙をぬぐわれ睦月は頬を染めた。 「さすがに寒いね」  背中に腕を回された腕にもたれながら、睦月は促されるまま寝室に向かった。 「菅谷さん、新しいの入ったから見て行かない?」  胸に『梁井』とネームプレートをつけた店員が水色のブラを手にした睦月に言う。彼女とはこの店で一番話しをする。短くカットした髪に、すらりとした手足。ボーイッシュな彼女はまるで雑誌から抜け出てきたモデルのようだと思う。きっと、どんな服でも着こなすだろう。 「じゃあ、せっかくなので見せてください。何色?」 「水色とパープル、あとピンク。菅谷さん水色好きでしょ」
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