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バカにしてんのか
「バカにしてんのか津村。弥生時代みたいに言うな。昭和が終わったのはついこの前だぞ。おまえは何年生まれだ」
「平成六年っす」
「津村、オレだってギリギリ昭和だよ。バカにしてんのか」ほろ酔いで目の周りを赤くした佐藤が憤慨する。
「してませんって。ふたりして絡まないでくださいよ。酒癖悪いな」
「昭和は偉大なんだぞ。戦争もしたけどさ」佐藤が物知り顔であごを上げた。
「木とかの周りに円を書いて……要は牢屋な。最初に捕まったやつは木の幹に手をついてさ、捕まった順に手を繋いで助けを待つんだよ。タッチだけじゃだめで捕まえて十数えないと連行できないんだ。
逃げるチームの誰かがタッチすれば全員開放されて逃げられた。これも地方によって微妙にルールが違うかもしれないけど」
「焼き鳥の盛り合わせ、お待たせしました」お気に入りの女性店員じゃなかったから佐藤は悲しそうだ。
「じゃおれはハイボールにしようかな」
「はい」佐藤が椅子の背に肘をのせて店内を見渡す。お気に入りの女性店員はいない。
「深谷さん、ちょっと待ってくださいね」佐藤は粘り強い男だ。
「どうしたんすか深谷さん。さっきから物思いにふけっちゃって。それとも飲み過ぎました?」佐藤に顔をのぞき込まれた。
「ああ、そんなに飲んじゃいないよ。ちょっとな。……思い出すひとがいてさ」
「ドロケイで? お、もしかして初恋の相手ですか。あ、すいません枝豆ください」嘘みたいに周りをよく見ている。たしかに、かわいい子なのだが。
「うん……そうかもしれない」
「何かやると非国民って罵られたんすよね深谷さん。青い山脈でしたっけ? 一緒に歌ったんすか」
「バカにしてんのか津村。昭和は六十三年と七日間あったんだ。一緒くたにするな」
「深谷さん、ドロケイ知らない津村はほっといて、ハイボールおかわりしますか」
「あぁ、そうだな」
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