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対峙
風に押されるように、記念碑の陰からすっと足を踏み出す。前後左右に注意をはらいながら、息を殺してゆっくり歩く。鉄棒を迂回して、雲梯の横を通りすぎる。
おっと──飛んできたドッジボールの球を、走り高跳びのはさみ跳びみたいにしてよける。まずいまずい、目立つ動きをすると見つかる。息をひそめすぎた僕は酸素不足でガフガフしてしまう。心臓が早鐘を打つ。
何気ない顔で歩いていれば、生徒がたくさんいる中で目立たない。そんなことはわかっているけど、ちょっとの音でも飛びあがりそうなぐらいにビクビクしている。頭の皮が耳の後ろから頭のてっぺんに向けてピーンと緊張する。これが猫だったら毛が逆立ってるはずだ。
首の後ろと肩甲骨あたりがぞわぞわっとする。後ろに目がほしい。お尻の穴がムズムズして、きん玉がキューっとなる。
ときどきゆっくりと振り返る。首がギリギリッと音を立てそうだ。
うわっ! かばうように上げた肘の向こうに見えたのは、関係のない生徒だった。あ、走ってくる。ぎょッと見ると鬼ごっこをする下級生だ。脅かすんじゃない。つばを飲み込むと、耳の奥がごくッと音を立てる。
目の端で走り出したやつがいる。顔を向ける。こっちに真っすぐ向かってくる。
ヤバイ見つかった!
全力で走り出す。もちろん、捕虜の仲間たちがいる方へ大きく回り込みながら。
走ってくるやつはかわしやすい。右に行くと見せかけて左に、左に行くと見せかけて右に一気に走り抜ければいい。右ひだり右ひだり、右みぎ左、右ひだり。相手の逆を突く。
抜いた。
次も抜いた。みゆきちゃん! 息が乱れる。
おっと出たな。これが厄介だ。あわててスピードを落とす。
立ち止まり腰を落とし両手を広げているやつが一番怖い。
近くはすり抜けられない。距離を取って立ち止まる。少し後ずさる。止まるとよけいに息が荒くなる。
大回りをすれば無駄に体力を失う。下手をすれば完全に追いかけられる体勢になる。走ってきた分不利だ。余裕を見せなきゃ。右へ左へと軽快にタイガーステップを踏む。
離脱するべきか突っ込むべきか。相手は向きを変えてジリジリと対応してくる。
どうするどうする。右から来るのか左から来るのか、それとも真っすぐ……。にやにや笑う警官役は、腰を落としたままゆっくり近づいてくる。
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