純/散策

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純/散策

純が東京の専門学校に通おうと思ったのはただ東京に出たかったからだった。 当然、そんな理由では親に反対されそうだが 「純、授業料と生活費は出してあげるから東京で暮らしてみなさい」 父親を若くして亡くしたものの、母親は経済的に安定していて奔放な教育方針だったので難なく純の希望は叶なった。 「暑い…」 実家のセミの鳴き声や青々とした空から降り注ぐ日差しではないけど、どんよりジワジワと下から押し寄せてくる暑さは都心特有だ。 着たい服をバイト料でやっと買える…。 勇み喜んでいた足に暑さがまとわりつく。 それにしてもこの街は風がない。 ジブリの風の谷の住人なら憂う事態だろうが、僕は近くにあった喫茶店に転がり込んで涼むことにした。 地下の階段を降りて湿った空気を感じた。 こんな鬱蒼としたところに客はいるのか? 面倒が潜んでそうな予感がした。 けれど好奇心に負けてドアを開けるとカウンターに七人程の座れるようで幸い一つだけ空いていた。 立てかけてあるメニュー表をみて「あれ?高くね亅 ブルーマウンテン 1000円 キリマンジャロ  1000円 モカ       1000円  ※ ※ ※ どのコーヒーも1000円。 他の人の様子を見るとなんだか美味しそうに目を瞑ったり、笑みを浮かべて飲んでいた。 ホットは暑いので 「アイスのブルーマウンテン下さい」 と店員に注文した。 アップライトベースの音が静かに聴こえてくる。 純はひまをもてあまし、新聞を読んでコーヒーを待つ。 「お客さん、ブルーマウンテンのアイスコーヒー出来ましたよ」 寝てたのか起きてたのか分からない程、浅い眠りの中起こされて 「…ありがとう」 と言うとコーヒーを飲んだ。 「………」 店の水がマズいのかも知れないし、コーヒーに舌が馴れてないのかも知れない。 何だか実家で飲むコーヒーのほうが上手く感じた。
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