ヤス/打ち上げ

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ヤス/打ち上げ

「すいませーん。誰かいませんかー?かき氷頂けますかー?」 ヤスと雪絵がテーブルの下にいるのが見えてナミはわざと大声で聞く。 『明日、二人っきりで会おう』自分の昨日の言葉が宙を漂い、空に向かって淡く消えた気がした。 「い、いらっしゃい。ナミさん」 「いらっしゃいませ…」僕はなんとなくソワソワする。 そして、合わせていた手を離し誰とも目を合わせず顔を赤くした。 「な、ナミさん、このかき氷、日光から取り寄せたんだって。凄いよね!」 「そう?何が凄いの?」と素っ気なく応えるナミ。 「ねえナミ。やっぱ他の店行く?」事情を知るヒロミさんは僕達を交互に見た。 「ま、待って。これはソフトボール部名物なんだから」苦笑いしながら応じる。 「そんなこと言われても。普通にしか見えないよ」 ナミは怪しんで言う。 「本当だって。かき氷通の先輩がわざわざくれた氷だよ。とにかく食べてみなよ」 そう言って渡したかき氷はキラキラ輝いていて訳もなく北海道を思い浮かべた。 「うーん、ほんとかな?」「日光の氷って…そんなに違う?」 やっとようやく興味を持ったようだ。 「これ、ヤバい!ふわふわして美味しい!」 「いい先輩がいるね!ヤス」 「でしょう!やっぱ氷が違うんだよ。日光のは」 『そう言って貰えるとかき氷を推して本当よかった』と雪絵さんは嬉しそうに微笑んでいる。 先程雪絵さんと手を握り合ってコソコソしてたのは忘れてしまった、ように思ったが 「ヤス先輩の人望のお陰です」とあろうことか腕をギュッと掴んで来た。 2人は如実にいぶかしげな顔で「そうよね~先輩はお友達が多くて素敵よね~」と目だけは笑ってない表情で笑みを浮かべる。 「ナミ、何だか寒くなって来たよね?今日はまっちゃんところの打ち上げ行かない?」 気まずいムードを変えようとヒロミさんは腕を引っ張りナミを誘った。 「お幸せに。ヤスと雪絵さん!」そう言うと当てつけがましく投げキッスをしてそのまま振り返りもせず帰っていってしまった。 「ヤス先輩、あの綺麗な人って彼女?」と雪絵さんは心配そうにこちらをみる。 「ううん、友達以上、恋人未満かな?」 顔が青ざめて見えたのだろうか、雪絵さんは 「さっき二人でいたから誤解したかな?」 実のところ図星で完全に痛いところだったけど心配かけたくなかったので 「そんなこと無いって。ナミさんは、、友達だから」そう言うと夕方の涼しい風がサッとヤスの背中を通り過ぎていった。 「とにかく、なんでもないんだよ、本当気にしないで」 せっかくソフトボール部に入り内気な後輩が積極的になったのに。 「私、ナミさんに言ってくる!」そう言うと、走っておいかけていってしまった。 「お、おおい!なんていうんだよ?」 ヤスは、手を伸ばし彼女を追うが間に合わない。 「『私達、なんでもありません。誤解です』って言います」とそれがベストの選択だと言わんばかりの笑顔を見せる。 「それじゃ、よけい誤解されるよ!おーい!」
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