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零時十二分。灰霞の街のはずれ、銀灰地区三番通りから星間鉄道の汽車に乗り込んだ。発車から数分後、窓の外に目を向けると、既に地上は遠く離れ、星の海が広がっていた。少しだけ窓を開けて、遥か彼方の赤い星に手を伸ばす。今は亡き母と街の菓子店で買ったケーキを思い出した。上品な艶をまとったチョコレートのコーティングの上、瑞々しいラズベリーを王冠のように頂き、その周りを銀色のアラザンが瞬く。セピア色の思い出。繋ぎ止めておきたくて掴もうとするも、その手にあるのは虚空のみ。寂しさとともに握った手を引っ込めると、ふと漂う甘酸っぱい香り。「宇宙はラズベリーの香りがする」と言っていたのはいつの時代の宇宙飛行士だったか。
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