Sogni d’oro ~ 黄金色の甘い夢 ~

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 英国人の二世俳優、ジルベール・グロリオーサ・マーレイがいる。  この噂は瞬く間にアルファ・ビルヂング内をかけめぐった。  ジルベールは高を括っていた。  映画館や彼が広告塔を務めるブランドの店に行かない限りジルベールの顔をはっきりと認識する機会はないはずだと。そういった店舗にはポスターや壁紙があるが、CMに至ってはひとつのバージョンがたまに流れるくらいのもののはず……新作の映画はまだ宣伝できる段階ではない。  思えば管理人のヒロは黙認してくれていたのだろうし、シュンや雄馬(ユーマ)はジルベールを知りこそすれど「友人」に徹してくれている。  彰人も初対面時には熱烈なファンぶりを見せたが以降はともにハナを愛でる同士・友人として過ごしている。  もしこの場に娘のクラーレットがいれば、あの子に気をもませたことだろう。 「ねぇ、ジル? あなたってやっぱり甘ったれなのね……?」  そう言ってため息を吐いたに違いない。  この騒動が起きるや否や誰かしらがジルベールを一目見ようと彼のもとを訪れた。  中でも206号室の香川姉妹の感動はひとしおだった。 「まーっ! この目で(なま)のジルちゃんを見る日が来るなんて! ねぇ十和子ちゃん?」 「『小旅行(イクスカーション)の恋人』の映画の頃のロージィにそっくり! 私たち、昔からあなたとお母さんのファンなのよ〜」  ジルベールの母親を愛称で呼ぶ姉妹の頬が嬉しげに染まる。母は『銀幕の天使』と評される女優なのだ。
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