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「ってかさ、あんた、娼婦と関係してたってマジなわけ?」
「芹ッ……!」
いかにも藪から棒の話だった。
ごく一瞬。一秒にも満たなかったかもしれないが、水を打ったかのように場が静まり返る。同時にヒロの鋭い声も飛んだ。
例の一件を知っているであろう香川姉妹は押し黙り、雄馬とシュンもそれに倣う。彰人は、ジルベールがいっそうハナを愛でやすいよう、彼の手をハナの丸まった背中に置いた。
「そうだよ」
ジルベールは彼自身が驚くほど穏やかな声を出した。
「だけれど、君は――ずいぶんな知りたがりだね」
叱咤し止めに入ったヒロに、ジルベールから声をかける。
「メイちゃんをまず、お家に帰してあげて?」
当人の要望どおりに、まず幼子を離脱させる。ジルベールはメイちゃんを見ていると、どうにも我が娘と重なってならない。そしてこの話はまだ娘に明かしていないことだ。
「もう昔の話さ。七年になるかな」
娘のクラーレットが実子であることはDNA鑑定をもって公表済みである。しかしここから先は伏せたままだ。もしかすると娘にも一生明かさないでいる秘密かもしれない。
当時を知る人びとにとっては暗黙の了解なのだ。
「えぇっと、ジルベールさん。あなたの娘さんって、確か七さ……っ」
「いや幾つのときの子どもだよ」
大久保さんと静流も反射的に声を上げたが、言い淀んだ末に口を噤んだ。
「十四歳」
ジルベールは事もなげに答える。
これは暗黙の了解だ、ジルベールが娘の存在を公表した時点で人びとは知ることとなった。そして他でもない彼自身が箝口令を敷いた。
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