Sogni d’oro ~ 黄金色の甘い夢 ~

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 時の過ぎゆくままに、心身を引き裂かれたジルベールは故郷(ロンドン)を飛び出した。  十八歳のジルベールは世捨て人も同然に放浪の旅を続けた。その(かん)、天職のはずだった俳優業も開店休業状態だった。  実際、ジルベールが俳優だと知らずにいたクラーレットをひどく驚かせたものだ。  生後まもなく孤児院に預けられていたクラーレットがジルベールと出会うまで四年もの月日を要した。つまり彼はそのときまで自身に子どもがいるなどと夢にも思わなかった。だが、偶然顔を合わせた小さな女の子は確かに似ていたのだ。  ジルベールが愛して止まない、元恋人に。  黒い髪に同色の瞳は猫みたいに大きくて、きらめきに満ちている。見つめれば見つめるほど色が濃くなって飲み込まれてしまいそうになる。  身内の欲目を抜いても我が娘は美人だ。  彼女を一目見ただけでジルベールの中に「ああ」と込み上げるものがあった。  クラーレットはジルベールのことを『世紀の二枚目』の仏俳優と横並びに褒めたたえるものだから、困る。それどころか! 近ごろは『フランスの貴公子』まで引き合いに出すのだから、ジルベールはいよいよ参っている。  映画界に(うと)かったクラーレットも、ジルベールの英才教育を受け、様々な映画・俳優を詳しく語れるほどになった。父の薫陶のたまものだ。  過去をまざまざと思い出したが、ジルベールは自身について多くを語ろうとはしなかった。  芹に向けて「知りたがりだね」と微笑み、今度はジルベールから疑問を投げかける。 「……気になったから」  場の雰囲気が様変わりしたのが気がかりだった様子の芹が呟く。ぶっきらぼうな口調だが悪意がないのは分かっていた。 「稀代の美男子が全部なげうったっていうのが……あとは恋とか、愛とか。そういうの」
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