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神妙な顔をして悩むジルベールを深刻そうに見つめる男が一人。305号室の小山田小太郎だが、ジルベールは彼の名前を知らない。
パーカーのフードを目深に被り、その下で目は落ち着きなく泳いでいる。しかし誰も気づかない。
ジルベールの話は続く。
「それで、誰か忍び込んだのかなって。職業柄、何かあれば事なので、盗聴器か隠しカメラかを調べようかと思っているんですが……近くに家電量販店ってあります?」
「そんな大袈裟なぁあ?!」
盗聴器・隠しカメラ。あれよあれよという間に大事になっていることに小山田の焦りが加速する……つい声を上げずにはいられない。
そう、彼こそがノコギリヤシの送り主・小山田小太郎ことカゲである。
本職は、泥棒。
盗聴器に隠しカメラだと?! 彼にとって非常にマズイ状況になってきた。なんとかして話をそらさなければとジルベールを観察した……
するとジルベールの首に真鍮の鎖が垂れ下がっているのを見つけた。
「きっ、綺麗な……! ずいぶんと良い物をしていますね?! うんうん、実に良い。ちょっと拝借しても?」
「困りますね。びた一文にもなりませんよ、ただのあつらえ品ですから」
カゲの手が確固たる意志を持ってジルベールに伸びていく。ジルベールは、にこやかに微笑んだが、瞳の奥では冷めた炎が燃えている。自身の首元に伸びた手を握って握手を交わす。
「おててすべすべっ……!」
泥棒として目利きしておきたいところだったが、カゲの思惑は見事に横滑りしてしまった。
おまけにジルベールはまだ家電量販店に行くことを諦めていない様子だ。カゲの受難は続く……
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