Sogni d’oro ~ 黄金色の甘い夢 ~

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 ジルベールは注意深く慎重に相手を見つめている。カゲは切羽詰まった様子だが一向に口を開こうとしない。 「……金目の物じゃあないからご期待には添えないけどねぇ?」  結局はジルベールが先に痺れを切らせた。気が立っているときの彼は呆れるほど堪え性がない。とにかく追い詰められているカゲとの我慢比べがはじまっていた。  しばらく思案したのち、改めて口を開こうとしたジルベールをカゲが大声で封じ込める。 「ジル様っ、後生ですからトイレを貸していただけませんか?! ()()()()()()()からあぁあ!」  ジルベールが面食らったのもつかの間でカゲが301号室のトイレに籠城すること三〜四十分。 「ってかさぁ、これ本当に効くわけ? 君を見るかぎり怪しいんだけど……?」  住人たちを混乱の渦に巻き込んだノコギリヤシの袋を片手にジルベールが問いかける。彼は「なんだってトイレの(ドア)にもたれかからなきゃいけないんだ……」とためいきを吐く。  これでは美麗な二世俳優も形無しだ。 「腕の良い医者(ドクター)でも紹介しようか?」  こう声をかけてから、さらに十五分後。ずいぶんと精神を削がれた様子の――それでいてやはり晴れやかな顔をした――カゲがトイレから這い出てくる。 「平気……?」  満身創痍のカゲを見兼ねたジルベールが頬を引き()らせた。
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