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ジルベールが愛娘と国際電話を繋いでいると、エントランスのロビーで落ち合った青年が不思議そうな顔をした。
二つ年上の雄馬は403号室の住人でジルベールに初めてできた日本の友人だ。本来は「ユウマ」というが、発音に苦戦するジルベールは間を伸ばして彼を呼んでいる。
細身のジルベールと違い、体格が良く顔つきも精悍で、姿勢の良さからも雄馬の自信を感じさせる。そんな彼があどけなさを覗かせたものだから、ほんの少しジルベールの悪癖が顔を出した。
娘と話をすると、決まってジルベールは声も表情も甘くなる。その自覚もあった。電話の話し相手を知らせなければ勘違いされても不思議はない。
ジルベールは思わせぶりに片目を瞑り、自身の薔薇色をした唇に人差し指を当ててみる。あまりからかいが過ぎると彼の恋人のシュンに叱られてしまうんだろうか?
「ないしょ」
上手くない日本語で呟くと雄馬は何かひらめいた様子で二〜三度頷いた。その素直さが大型の犬みたく愛らしいが、そう簡単に役者を手玉には取らせない。
だが、ジルベールは嘘なく微笑んだ。
「僕の、世界中で一番大切な女の子だよ」
なお403号室のもう一人の住人・小鳥遊駿輔に至っては、ジルベールの電話の相手が彼の娘だと見抜いたらしい。
互いに英語と日本語を教え合うジルベールと雄馬の話を聞いたシュンは半ば飽きれたように首をすくめて、楽しくなったジルベールは声を上げて笑った。
人の恋模様を覗き見するのは好きだ。自分までこの上なく幸せな気分になれる。
ジルベールは己の恋に鍵までかけて蓋をしている。
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