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「ジルベール……?!」
突然声が上がって、ジルベールは不意を衝かれた。口が半端に開き、青い瞳も丸くなる。名前を呼ばれたのだということは分かった。
アルファ・ビルヂングの玄関口で立ち尽くす青年が一人。それもハリウッドで目が肥えたジルベールも感嘆するほどの恰好良さ。彼もショウビズの世界の人間なんだろうか?
紺色のスーツにピンク色のシャツを合わせた青年は目を輝かせてジルベールを見つめている。
「こっ、こんにちは」
やや調子はずれな日本語で返せば青年は「わっ!」と興奮した様子で駆け寄ってきた。その拍子に彼の手から荷物が落ちる。白いビニール袋から切り身のツナと猫の写真に「ちゅ〜る」と書かれたパッケージが飛び出した。
どちらともなく「あっ」と呟き、先にパッケージを拾い上げたジルベールの手を掴まれる。熱烈な握手だ。そこから彼はジルベールのファンで、出演作を追っていることなど語ってくれた。
ジルベールは彼の「応援してます」という言葉に目頭が熱くなるのを感じた。母国から遠く離れた異国の地にも自分を応援してくれる人がいるのだ。
その後、一〜二言話をして別れた彼は205号室の住人で、西岡彰人と言った。どうやら雄馬に次ぐ第二の友人になりそうな気配がした。
やがてジルベールは一拍遅れで思い出す。
「ハナチャンの……っ!」
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