21人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
口は開いたきり塞がらない。「えっ」だか「あ」だか、言葉に満たない声がジルベールの喉を突きつづける。
つぶらな瞳がジルベールを見つめている。
「こっ蝙蝠……?!」
ようやくその正体が掴めた! 外套さながらの飛膜の翼をはためかせる。その激しさ・大ぶりな動きは只事ではないだろう。威嚇されている、間違いなく。おまけに『血なんか、吸わない』?
そうはっきり聞こえた。おそらく空耳ではない。
「君も伯爵なの……?」
ジルベールが呆けたままこう問うたのも、かの小説に登場する男が蝙蝠に変化するからだが、目の前の蝙蝠は「燃えるような赤い目」ではない。
夜に似合うとても綺麗な青い目をしている。
『僕は宮廷貴族だからなっ! でもお前には教えてやんないっ』
蝙蝠はいっそう翼をはためかせ、口を大きく開いた。わずかに覗く牙が鋭い。
ジルベールは珍妙なものを見た。
いきなり蝙蝠から体当たりを食らった。しかも喋る蝙蝠だ。あの夜ジルベールは確かに声を聞いた。しかしふしぎな夢だったのではないか? と未だに信じられずにいる。
結局その蝙蝠はそのまま飛び去っていってしまった。ジルベールには正体不明のままだ。
後になって聞いた話だが、アルファ・ビルヂングには蝙蝠の苦情がちらほらあったらしい。
――だが、あれは本当に蝙蝠だったのだろうか?
そして今夜は一味も二味も違った。
最初のコメントを投稿しよう!