女風呂に侵入者

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女風呂に侵入者

『いつも笑顔でいなさい。人生は、自分の気持ちひとつで変わる。笑顔でいれば、何気ない日常が、特別な一日なる。あなたの名前には、そんな願いが込められているのよ』 『そう。誰だって、毎日が【祭】だったら、楽しいだろ?』  幼い頃、両親に言われた言葉は、今でもちゃんと覚えている。  そりゃ、生きていれば笑えないこともたくさんあるけど、それでも、笑顔は人を元気にする力がある。  だから私は今日も笑う。目の前の大切な人と、それから今は天国にいるふたりに向けて、精いっぱいの幸せを伝えるために。 *  十一月下旬、冬の訪れも間近になり、いっそう寒さを増した夜のこと。  閉店時間を過ぎたスパリゾート施設【Crystal Ocean】の大浴場で、私、野々原(ののはら)まつりは至福の時間を過ごしていた。 「あぁ~いいお湯」  私はこの施設の和食レストラン【椿庵(つばきあん)】で接客スタッフとして働いている。この施設で働くスタッフは職種にかかわらず、福利厚生の一環として無料でお風呂が利用できるのだ。  それは閉店時間の後でも可能で、椿庵でラストまで働いた日は、この時間帯の空いたお風呂を利用することが日々の癒しだ。 「このちょっと熱めのお湯が、疲れた肩と腰に効くんだよねえ」  ばばくさい独り言が、広い浴場内に反響してよく響く。しかし、誰の迷惑にもならないのだから構わないだろう。なにせ、今日は運よく貸し切り状態なのだ。
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