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「バカ、お前。服が濡れるって」
「いいから出てってくださいってばっ! セ、セクハラです!」
どういうこと? 私、間違いなく女湯に来たよね?
まさか、施設を経営する設楽ホテルズグループの副社長であり、この施設の支配人でもある設楽灯也ともあろう人が、の、覗きだなんて……!
「……あーもうわかった。出て行く。でもお前、説教があるから上がったらロビーで待ってろよ?」
「何ですか説教って! こっちこそ、文句言わせてもらいますからね!」
自分のハダカを隠すように、首だけお湯から出して、べっと舌を出す。
しかし支配人はそんな私のことは無視で、ワイシャツが濡れて透けた部分を引っ張ってさも迷惑そうに顔を歪めながら、大股で大浴場を出て行った。
あ~もうなんなの!? せっかくのお風呂タイムが台無し!
怒り心頭の私もそれからすぐにお風呂から上がり、ぷりぷりしながら脱衣所で服を身に着け、髪を乾かすのもそこそこにロビーへ向かった。
*
広々と開放的なロビー。そのインテリアは、バリやインドネシアのリゾートを意識しているのだとか。鮮やかな緑の観葉植物がいくつも飾られ、天井にはシーリングファンが回転している。
仏頂面の設楽支配人は、そのほぼ中央にある一人用ソファで、長い脚を組んで座り私を待ち受けていた。
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