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act Ⅰ
この扉を開ける前が、一番ドキドキする。
そう気付いてから、もうどのくらい経つだろう。店にいるあいだも、ずっと緊張している。心拍数は、たぶん、軽くランニングしてるくらいに上がっているかもしれない。
それを顔に出さないように、しているつもりだけど。
「未希ちゃん、いらっしゃい」
深呼吸をしながら、店の扉を開けた途端にそう声をかけられて、マスクの下の頬の温度が一気に上がった。
ドキドキし続けるのはくたびれるから、こんなに仕事がハードだった日は、本当は直ぐに帰った方がいいのに。
頑張った体が欲しがるのは、安定剤のように疲れを溶かす彼の笑顔。
「こんばん、は」
彼は優しく、視線で自分の目の前のカウンター席に促してくれる。
そんな仕草は、私にだけ特別?
言葉のないコミュニケーションて、何が言われるよりきゅんするって、わかってる?
マスクで、ニヤけた口元が見えなくてよかったと思いながら、彼の仕事がよく見える特等席に、腰を下ろした。
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