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彼はバイセクシャルだと、いう噂がある。
確かに、何度か男の人との親そうな場面を目にしてた。このカウンターの席で、他の人を寄せ付けないような空気を纏って、イケメン2人がしっぽりしている、図。
「仕事終わり、なんか色っぽいねぇ。…未希スペシャルでいい?」
顔を上げると、目の前に体をかがめて私に視線を合わせる彼がいた。
いきなり、この距離に。心の準備できてないタイミングでは、勘弁してほしい。一回大きく打った鼓動が、聞こえてたりして。
いつだってそう。
気のありそうな、揶揄ってるようなセリフをくれるから、心拍数が上下して疲れる。疲れるのがわかってるのに、顔を見たくなる。
このBARのマスター、小野寺 玲。
ジェンダーレスな雰囲気の、ガタイのいいクールなイケメン。
初めてBAR Denebへ、職場の上司に連れてきてもらった時には、失恋して凹んでたはずなのに、いつからか私は、1人でここに通うようになった。
…紛れもなく、マスターに会いたくて、ここに。
「未希ちゃん、仕事大変すぎてない?」
未希ちゃん、て呼び方にもやっと慣れた。こんな大人になってから、優しく名前を呼んでもらったことは正直記憶にない。しかも、気のせいか“みーきーちゃん"って大切そうに言ってくれてるから、余計に胸の奥に響く。
…自惚かな。
「大変なのかどうか、もうマヒしてわからなくなってるかも」
あなたのこともね、と心の中で追加した。こんな風にしか言えないなんて、私もいじらしい。
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