act Ⅰ

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 だいぶ前のそんな事を思い出しながら、グラスにあたる光をぼんやり眺める。  あの晩、たぶん私はマスターを好きになった。  でも、気持ちを伝えるなんて、とても無理。  見ているだけでこんなにドキドキするのに、そんなことを伝えられるとは思えなかった。  僕と付き合おうよとか、うちにおいでよとか、冗談みたいに言われたことはある。 「本当なら、疲れが中和できるようなカクテル出してあげたいんだけど。ごめんね、ノンアルで」  ハードな手術(オペ)が詰め込まれた今日みたいな日は、好きな人の姿で癒されたかった。 「ううん、いいの。マスターの顔見られたし、ノンアルでもカクテル美味しいし」  珍しく素直な言葉が口から出たことに自分でも驚いて、照れ隠しに彼を見上げると、硬く熱い視線が返ってきて一瞬焦る。  …え?  そんな、真剣な目で見ないでよ。いつもみたいに、冗談で返してくれればいいのに。  
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