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だいぶ前のそんな事を思い出しながら、グラスにあたる光をぼんやり眺める。
あの晩、たぶん私はマスターを好きになった。
でも、気持ちを伝えるなんて、とても無理。
見ているだけでこんなにドキドキするのに、そんなことを伝えられるとは思えなかった。
僕と付き合おうよとか、うちにおいでよとか、冗談みたいに言われたことはある。
「本当なら、疲れが中和できるようなカクテル出してあげたいんだけど。ごめんね、ノンアルで」
ハードな手術が詰め込まれた今日みたいな日は、好きな人の姿で癒されたかった。
「ううん、いいの。マスターの顔見られたし、ノンアルでもカクテル美味しいし」
珍しく素直な言葉が口から出たことに自分でも驚いて、照れ隠しに彼を見上げると、硬く熱い視線が返ってきて一瞬焦る。
…え?
そんな、真剣な目で見ないでよ。いつもみたいに、冗談で返してくれればいいのに。
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