16人が本棚に入れています
本棚に追加
東京・新宿・歌舞伎町③
「ハジメにはああ、言ったけど、今日は飲ませてやりたかったなぁ・・・」
「うん。そうね。私達の初ライブの後、大騒ぎして。お酒飲んで、煙草吹かして・・・」
「少し、大人になった気分だった。ライブハウスの小さなスペースで、客も200人入れば、いっぱいで。観に来てるヤツらも身内が多くてさ。でも、凄かったなぁ。カンドー的でさ。柔道以外で久々に痺れたよ。」
「初っ端に『Summer City』を持ってきたのがよかったね。ちょっと、イントロ長めにして。」
「そうそう、あのイントロUFOがアチコチに飛んでいくイメージ。」
「あの曲の打ち込み、大変だったなぁ・・・3日かかったのよ。」
「最後ら辺、美由紀も結夏先輩も発狂しそうだった。嫌ーーーっな汗、かいてる感じだった。よく、2人とも頭をかいてた。」
「あの日で結夏さんと話して、『Sea.dog』は解散する予定だったって、和真は聞いたら驚く?」
「二人は仲が悪いんだなって事は分かっていた。」
「あの女。シュンと離れられないで居たの。シュンと離れられないのにアナタに近づいて行こうとしてたの。あの女、何て言ってたか、私は忘れられない。アタシ、凄く、悔しかった。」
「へーーっ!何て言ってたの?」
『2時間あったら、私が和真をオトコにしてあげるんだけどぉ〜〜。』だって。もう、殺意しか無かった。ライブ中だって、いつもアナタのすく真隣にいてさ。本当にムカつく」
美由紀は笑ったが眼に怒りが射し込んでいた。
「お前なぁ・・・俺があの人にオトコにされると思った?」
「思った。結夏先輩、狙った獲物は外したことはなかったもん。」
「まぁ、そうだったけどな。」
「え?誘われた?やっぱりぃ?」
「うん。そのヤッパリ。正直、しつこかったな。手を握ってきたり、肩を寄せ合ってきたり。笑っちまうのが、突然、家に来て全裸になろうとしてたもんね。何だあのクソビッチ。」
「本当なの?絶え間ないボディタッチとか全裸になったとか」
「うん。そう。こんな感じ。」
「うっ!カズ君、嘘っ・・・」
和真は美由紀を柔らかく抱きしめた。彼女も始めのウチは抵抗する素振りを見せていたが、力なく彼にしたがってされるがままになった。
「私達、もう、アラフィフだよ!」
「50歳を超えたから何だよ。俺のために普通の幸せを失いやがって!」
「普通の幸せって、なに?私、充分なの。今、とっても幸せだから。それでいいの。」
二人は顔を寄せ合い唇を寄せてしばらく互いのキスの味に酔った。
「カズ、唇、ガッサガサだよ。」
「お互い様だ!口だけは減らねーな。」
「50年前からね。」
「そういうこった、帰ろう。」
二人は店を後にして新宿西口、都庁の方へ歩きだした。歩きながら結夏の話を少しした。
「今、あの人、凄く、お金に苦労してるみたい。沖縄の実家にお金の無心の電話があったんだ。」
「両親は亡くなったみたいだし、兄弟姉妹にも相手にされてないみたいでね。」
「しばらく、金がなくて池袋のソープにいたらしいけど。」
「スナック→キャバクラ嬢→六本木の高級コールガール→新宿に流れてきて、最後は場末のソープで身体を売るか。そういう、人生だったんだろうな。どう足掻いても。」
「みんな、生きて行くのに必死だからね。」
「そういうこった。コロナ、早く明けないかな?」
和真は新宿中央公園近くのコンビニでブラックコーヒーを買った。マレーシア人が売り子で立っていた。
新宿のいつもの風景・・・
最初のコメントを投稿しよう!