16人が本棚に入れています
本棚に追加
東京・新宿・歌舞伎町 ⑥
美由紀のiPhoneがうなりをあげて、呼び出し音が鳴った。液晶パネルを見ると。
「あら、麻里子から。久し振りだわ!もしもし?」
「あ、美由紀、元気?お店、終わった頃かなぁと思って。」
「ありがと。今、帰り道、今日もお客さん、少なかったぁ。コロナだしね。歌舞伎町も色々、あったから。夜の接待を伴う飲食店がどうたら。ほんと、いい迷惑。麻里子は元気なの?比嘉っちは?」
「うちの旦那?アハハ!私より楽器が好きなのは変わりない。御茶ノ水の何件かある楽器屋にいりびたってるわ。結婚して25年以上になるけど変わらないな。子供達が手が離れてから酷くなった感じがする。」
「ウチのもよ。お店にいても無愛想でカクテル作ってるだけだし。」
「美由紀、また、みんなでセッションしたいね。最近、1980年代のJ-popがCITY POPとかで再評価されてるからね。」
「そうそう、CITY POPなんだってね。すごいよねーー。セッションか。時間がねー。比嘉っちは昼間の仕事で土日しか休みじゃないからなーー。飲食店は土日も開けた方がお客さん、入るからね。」
「えーーーっ!カズ君の印税、未だに入ってきてるんでしょ?お店、休みなよ。」
「そんなの雀の涙くらい少しだもの。生活できないよ。」
「TVなんかであるじゃない?『あの人は今、的なテレビ番組とかオファーあるといいなぁ〜」
「それが、あったのよぉ・・・話があって、でも、あの人、『柄じゃない』って断っちゃって。再ブレイクしたらカッコいいと思ったんだけどなぁ・・・懐メロとか歌っちゃって。」
「えーーーーっ!勿体ない!テレビ出演のカズを見たかったなぁ・・・」
「ホントよね、沖縄のじぃじ、ばぁばにも元気な所、見せられたのに。」
「そうよねぇ・・・所でさ、今日、電話したのやっぱり、カズの事なんだけど、あの人、最近、寝れてる?」
「うん、まぁまぁ、かな?あの人、私と一緒だと寝れるのよ。時々、寝れなくなる時はあるかなぁ・・・デェビゴっていう睡眠薬を処方されてる。でも飲んだら、次の日、残るみたい。午前中はダメだね。ボ―――ッとしてる。仕事が夕方からだから何とかって感じかなぁ。」
「文京区に東亜学院大学付属病院って言う所があるの。」
「へーーーーっ!文京区のどの辺?」
「白山から千石の途中に、どっちで降りてもいいの。」
「東亜学院・・・」
「そうそう、そこの心療内科で睡眠外来があって、立石っていう腕のいい医者がいるみたい・・・」
「あ、本当?そうなんだね~。」
「凄く丁寧に対応してくれるんだって、一度、行ってみるといいよ。」
「ありがとう!麻里子は何歳になっても優しいな。」
「そんな事ないよ、美由紀が甲斐甲斐しくカズの世話をしてる所を見ると心が痛くて。私のせいなのか?とか、思っちゃう。」
「そんな事ないよ・・・麻里子のせいじゃない。いつも、ありがとう、また連絡する!こっちはこれからご飯なの、ごめんね。」
「あ、こっちの方こそ、ごめん。またね。」
ピッ!とスマホの通話が途切れた。
『そうなんだよね・・・立石先生、名医なんだよね。今、立石先生が主治医なんだよね・・・』
「どうした?」
「カズ君、麻里子からだった。また、セッションしようって。」
「何を・・・睡眠薬の副作用で喉がカラカラで声なんか出ないさ。」
「常にアイスコーヒー飲んでる人wwwwww」
「まぁ、いいじゃん。寝れる日もあるんだから。充分。」
「立石先生に感謝ね。」
2人は高松町の中腹にある、建てられてそんなに年月の経っていないマンションに入って行った。
最初のコメントを投稿しよう!