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東京・文京区・白山 ②
「カズくん、白山神社、いこ?」
「毎回、毎回だなぁ・・・」
「うん。そのルーティンがいいんじゃない?」
二人は白山の中腹にある「白山神社」というこじんまりとした、神社の鳥居を抜けた。神殿も古く、時代がかっている。
カラカラカラカラカラカラカラカラ!
金を鳴らして両手を合わせた。
「さっ!帰ろ。今日は週一、デートの日!」
「なぁ・・・」
「なぁに?」
「神様に何をお願いしたんだ?」
「知りたい?」
「ちょっとね。」
「今のままの生活が続きますようにって」
「なるほど、なるほど、お店が潰れちゃ行けねぇやな。コロナとかでさ。」
「違うよ。お店は分からないけどね。これからどうなるかとか。ただ、二人の生活が長く続くといいなぁって。」
「小っちぇえ、お願いだな。」
「そんな事ない。そんな事ない。」
満ち足りたように美由紀は和真の首に両腕を絡めた。
「今が一番幸せ、何が何より、今が幸せなの!」
美由紀は胸を張った。
「ねぇ、メロン・フラペチーノ、人気なんだって。スタバ行かない?」
「あ、スタバ、行っちゃう?あれ、選び方が分かんないんだよね。」
「大丈夫、私に任せて置いて。この間、『婦人公論』観て勉強したの。」
「神保町の駅中にスタバ、有ったと思う。そこに行きましょう?帰りは都営新宿線で帰ろう?」
和真の病名は複雑性PTSDと今の主治医から診断を受けている。まだ、PTSDという診断名が付く25年以上前から、彼は何かしらのトラウマを抱え、長い間、ストレスに晒され続け、心が蝕まれて行ったという診断だ。それは、美由紀が彼の元から去ったことがその原因かも知れないし、また、別の物が起因しているのかも知れなかった。兎に角、今の彼は美由紀が傍にいれば、確実に寝る事ができ、日常生活も送ることが出来る。それは事実であるという事だった。寧ろ、仕事をするとき、美由紀との距離が近すぎる為、夜中でも自分の身体を起こしておくために、珈琲を飲む生活を、もう、長い間、続けているのも確かだった。睡眠状態をよくする為に彼はタバコを辞めた。酒は、バーテンとして自分が作るときに少し舐める程度である。
「美由紀!神保町でお茶したら、鶯谷に行くぞ!」
「え?」
彼女の頬に紅身がさした。美由紀のオンナが目覚めた瞬間だった。
休みでの何時もの事だが、美由紀は鶯谷と聞くだけで恥ずかしい。
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