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Okinawa in may ③
スタジオPは那覇国際通りの本道を三本超えた、かなり、奥まった所にあった。
スタジオがあるせいなのか、スタジオの回りに楽器屋が2件、他のスタジオが2件あった。Pの立て看板が赤で異常に目立っていたから、遠くからでも直ぐに分かった。
マンションの部屋を改造したスタジオが他にもあったが、Pは元々、音楽スタジオとして設計されていて、レコーディングやコーラス等の音入れに適した場所でもあった。
だから、利用する値段もやや、高めでとてもじゃないが高校生が利用できるスタジオとは言えなかったが、Pの支配人が美由紀のバンドメンバーと親戚付き合いをしていて、割り引いて利用させて貰っていると彼女から聞いた。
和真はスタジオのあるビルの階段を4段、上がり、受付に駆け寄った。髪の長いいかにもバンドやってますという男が少年キングという週刊誌を読みながら油を売っている。
「すいません、Sea―dogってバンドしってますか?」
男は欠伸をしながら
「Aの201ってスタジオ。誰か呼び出す?それとも別の用?」
「すいません、呼び出せます?」
男は静かに頷くと大きな家電を左耳に近づけダイヤルを回した。確か黒電話だ。
「あぁ、そう、何だか足が怪我してるっぽい。そうそう、それそれ。あ、分かった。」
「おい!若いの2階の1号室ね。ギター貸そうか?」
「要らねぇ。多分、直ぐに帰ると思う。」
和真は2階にエレベーターで上がって行った。果たしてAの201号室はエレベーターを上がった左隅に位置していた。
部屋に近づくと何やら中で揉めている。
『だから、俺はシティ・ポップは歌いたくないんだよ!』
『だから、アンタの声はロックじゃないんだって!』
『うるせぇよー。ヘビーメタルのどこが悪いんだよ!』
何だかあの世の世界の話なんだな。という事は和真にも理解できた。このまま、逃げよう。何だかヤバい雰囲気がする。
その時、201号室のドアが空いた。沖縄の子にしては色白で小顔の美由紀が顔を出した。
「カズ、逃げようとしたでしょ?」
「え??あーーっ!何だか揉めてたからな。」
「ウチのボーカル、別のバンドに引き抜きにあってるの。」
「え?何それ、どういう事?引き抜きってなんだ?」
「別のバンドに行っちゃうかもって。」
入口のドアにもう一人、女子が近づいてきた。美由紀と仲のいい2年生の先輩の名前はーーーーーなんだっけ?
「ちょっと、ドア、閉めてくれない?ゴタゴタしてるの聞かれるのは恥ずかしいから。」
「あ、はい・・・」
先輩はそう言うと奥に戻って行った。和真は反射的に敬語を使ってしまった。先輩と美由紀が何やら話をしている。先輩が頷く。
「そこの入口のキミ。中に入りなよ。一曲だけ歌ってくれる?」
「へ?オレ?」
「そう、俺君よ、真栄城君」
「え?は?えーーーっ!無理無理無理無理!」
「いいから、歌いなさい!面倒くさいな!」
「はいーーーーーーーっ!」
和真はスタジオに入った、メンバーは揉めていたボーカリストを含めて8人いた。
「ねぇ、俺君、杉山清貴&オメガトライブの『君のハートはマリンブルー』歌える?」
「えーーっと、一応・・・」
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