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Okinawa in may ④
カン!カン!カン!と乾いたドラムのスティックが鳴った。
『君のハートはマリンブルー』のイントロが染み入るように流れてくる。この曲は演奏する側も歌う側もそれなりの力量が問われる。
つまり、コピーするにはかなり難しい曲ではある。コピー元の杉山清貴氏の声の音程がかなり、取りにくい。ワザと音程を外しているようにも思える声。しかし、歌声は甘く美しい。
和真は意外と冷静になっている自分に気づく。楽曲が進めば進むだけ、落ち着き払っていく。
余りにもバックで奏でる曲調が美しく、当時の杉山清貴&オメガトライブに勝るとも劣らない技術を持っていたからだ。
「このバンド、ヤベェー」
和真は下唇を舐めた。そして、噛んだ。落ち着いている。声も走らずに行けそうな気がする。最高のコンディションで最良の声が出せそうだった。足の痛みはある筈だが、あまり感じなかった。
フワフワと緩やかに浮かんで行くような心地だった。4分弱の楽曲に和真の全てが凝縮されていた。杉山清貴&オメガトライブの杉山清貴氏でもない、オメガトライブの演奏でもない全く新しく奏でる音。
それが、このバンドの音だった。
バンド名は『Sea.dog』が始動した瞬間であった。一曲、歌い終わるとバンドメンバー全員が和真に駆け寄ってきた。美由紀は彼の首に腕を絡め抱きつき、思わず、抱きすくめてしまった。
「さてさて、ゴチャゴチャ言っていた、ウチの元、ボーカリストはどうするのかなぁ・・・」
先輩がイタズラな目で元と言うべきボーカリストを正視した。男の瞳に恐怖と怯えが見て取れた。
『てめぇ!消えろよ!』
その後はそのボーカリストへ出ていけコールだった。体、全体を震わせた可哀想な元ボーカリストは一目散にスタジオから退散した。
静かになると。美由紀が一言。
「カズ、抱きしめてくれるのは嬉しいんだけど、パンティライン触れられるのは恥ずかしいな・・・」
穏やかな声が響いた。
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