夏の終わりに①

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夏の終わりに①

今年の恩納村で行われる『大Okinawa fes in Onna!1986』は時間と準備の事情で申し込めなかった。 フェスに出るのも、デモテープを開催本部に送って、審査を受ける。出来ればオリジナル曲がいい。『Sea.dog』は和真をボーカリストに据えてから、オリジナル曲を書いていなかった。作詞、作曲はこの頃、桜庭結夏と美由紀の担当だったが、和真が『夏歌』のアレンジを求めて来たので、それに手が掛かりっきりになった。 ただ、いくつかのバンドが集まってのライブは夏の終わりに予定が組まれていた。 曲はコピー、オリジナル合わせて6つまで。持ち時間、30分くらい。バンド『Sea.dog』はクジ引きで、いの一番での演奏が決まっている。 メンバーはベースとドラムスは他のバンドから借りていた。アルトサックスも吹奏楽部からの借り物だった。バンド構成としてはリズム体に脆弱性はあるものの、キーボードとシンセサイザーの弦楽器は美由紀と結花が専任で担当していた。 リズム・ギターの面子が足りずボーカリストの和真に白羽の矢がたった。 この日、演奏した『Sea.dog』の6曲のラインナップはこんな感じ。 ①Summer city (TUBE) ②あー夏休み (TUBE) ③Misty night crusin (杉山清貴&オメガトライブ) ④希望の轍 (サザンオールスターズ) ⑤あなたに (安全地帯) ⑥君のハートはマリンブルー (杉山清貴&オメガトライブ) ※アンコール(あれば。) ⑦ハッピーエンドでフラれたい (杏里) ミキシングと打ち込みでほとんど事が足りる楽曲を選んだが、リード・ギターのハヤトも特に口を挟まなかった。ギターのアレンジは彼に全て任せてある。バンド始めの一週間は既存のバンドスコアの書き換えだった。 スコア(楽譜)が変われば、後はバンド全体の調整とボリューム、ボーカルのキーの高さの問題をクリアするだけ。 バンドの意思としては、今ある曲をいかに『Sea.dog』の色に染めて行くかと言うのが全体認識だった。 例えば、ボーカルで言えば、演じる曲のキーはAからCの間だが、声をキンキンさせないこと、ビブラートは最低限に抑えること。『Sea.dog』オリジナルのMCと振り付けを考えることだった。 和真は柔道部とミュージシャンの二足のわらじを履いていた。美由紀や結夏からはくれぐれもケガはしないように、キツく言われていた。特に顔面は良くないと言われていた。彼が毎日の柔道の合宿にも参加し、バンドマンとして成熟してくる頃、初めてのライブの期日が迫っていた。
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