夏の終わりに②

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夏の終わりに②

明日、初めて和真はボーカリストとして舞台に立つ。 美由紀はそれだけで胸が踊る。直近のボーカルは『Sea.dog』を止めてから新たに夏バンドを立ち上げて明日、同じ舞台にたつ予定。直近くんは最悪だった。歌い手として大した実力もないのに、ナンパだけは超一流だった。 ストライクゾーンがやたらデカい、誰でもバッチ来いの虫唾が走るオトコだった。美由紀にも何度、モーションをかけてきた事だろう。あんな奴の為にキーボードは叩きたくなかったが、ヤツを呼び寄せた、結夏がボーカリストと付き合ったり離れたりしていた。 自分の想いと、自分の持っているものが必ずしも一致しているとは限らない。前ボーカリストのシュンだってそう。あの声を聞いたら3歳の幼稚園児でもシティ・ポップを歌うように進めるだろう。シュンはポップスの申し子だと思った時期もあった。 女癖が悪くなければ・・・ バンドにいる美由紀以外の女、全員に手を出すような事をするから、最後はボロ雑巾のように捨てられたのだ。シュンは女の個別の各論は知っていたし、実践をして女遊びが激しかった。しかし、女の総論は知らなかった。女は声をかけられると勘違いをする。 遊びだと分かっていても、自分が男から声をかけられたら自分の物になると勘違いをする。自分の玩具になると思い込むようになる。そして、女同士の激しい罵りあいと喧嘩。結夏はベースの麻里子(マリコ)と喧嘩をした。殴り合いの喧嘩の後、麻里子はバンドを辞めていった。最高のベーシストだったのに。 美由紀は寝ていたベッドから飛び起きた。凄く嫌な予感がした。最近、結夏は和真へのボディタッチが多くなったように思える。結夏が和真を見る目は明らかにシュンに差し向けていた眼差しと同等のものだった・・・ような気がする。 美由紀は身震いした。結夏、アイツこそバンドに居てはいけない人種ではないのか?美由紀は落ち着かなくなり、自室をウロウロし始めた。そして、窓の外を見つめ、何かを確認すると急いで部屋を出た。手にはデパートの紙袋を持って。 そして隣家の『真栄城』と書いてある家の前に立った。
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