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ぎゅっと拳を握り締めた。会いたい。離れたからって友情を否定しないでほしい。強く強く春斗を思った瞬間ジェットコースターで落下したような感覚がして庇うように身を抱いて目を閉じた。ざりっと足元が砂混じりの硬いものに変わって恐る恐る目を開く。
「颯太!?」
驚いた声がして颯太は後ろを振り向いた。目を真ん円にした春斗が立っている。本当に来れた! と驚きとそれ以上に春斗が自分のことを考えていた証拠だと気付いてぶわっと涙が溢れた。
「え、嘘、泣いてる?」
「誰のせいだよ……っ」
本気でわかっていない様子に颯太は舌打ちした。涙を拭って指を差して叫んだ。
「勝手に縁切ろうとすんなよ! 大事な日に熱出した最低な気分をさらに追い打ち駆けんなよ! 俺はっ、俺は春斗のこと友達って思っているのに。お前は誰よりも優しいし、俺が苦手な国語は得意だし、絵も上手いし、俺がすぐケンカするところをうまくまとめてくれるだろ⁉ 俺なんかより、よっぽどすごいだろ⁉」
「そんなふうに、思ってくれていたんだ……うわ、どうしよう。すごくうれしい。なんで、なんで僕は転校しちゃったのかな……本当は僕だってもっと一緒に遊んだり、勉強したりしたかった。颯太は人気者だから、離れたら忘れられちゃうって思ったんだよ!」
ぼろぼろと泣き出した春斗と抱き合って泣いた。寂しい。居場所を選べない子どもの自分達が悔しい。泣き疲れて2人は背中合わせで座り込んだ。お互いにぼーっと夕焼け空を眺めているのが背中越しにわかるのが不思議だった。
「俺、魔法をレンタルして会いに来たんだ」
「えぇ?……まぁ、颯太なら何でもありな気がする」
「何だよそれ」
「だって無理だろってこと壊してやってのけるのが颯太じゃん」
「……はずい」
「帰りは?」
「往復魔法にした。割引で3000円だぞ」
「高っ! 小遣い大丈夫なの?」
「ふん、すぐ貯めるさ。俺、頭良いし」
テストで100点取れば500円もらえるのだ。それに親戚受けが良いから機会があれば小遣いは増える。
「そんで、魔法借りなくても遊びに行くから」
「うん。僕もお金貯めるよ。そして、もし、僕も魔法を借りられる店を見つけたら僕も移動魔法を借りるよ」
背中越しに互いの笑みが伝わる。颯太はキーホルダーをひとつ春斗に差し出した。
「これ、北極星のメダルなんだって。基本的に位置がほとんど変わらなくて、迷っても見上げれば道標になる星の光が宿っているんだって、だから」
「友情のメダル、だね」
「!」
「僕はすぐ自信がなくなっちゃうから、これを見て変わらない颯太を、変わらない友情を思い出す」
「忘れたらぶっ飛ばすからな」
言いたいことは言わなくても伝わった。柄にもなくジワリとまた目が潤んだから誤魔化すのに憎まれ口をたたいて春斗の手にメダルを落とした。ぶわっと何かの力が取り巻いたのを感じる。春斗もそれに気付いて慌てて振り返る。
「颯太!」
颯太の周りをきらきらと光が取り囲んでいく。これが魔法かと感動する余裕があるのはきっと春斗と約束できたから。ニッと口角を上げてみせる。お揃いのメダルを掲げた。
「またな!」
顔をぐしゃぐしゃにしながら春斗が大きく頷いたのを最後に颯太の姿はその場から搔き消えた。
気が付くと家の前だった。手には金ぴかメダルのキーホルダー。へへっと小さく笑って元気いっぱいに家の中へ入って叫んだ。
「たっだいまー! 今日俺、魔法使いだったんだぜ!」
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