1.『レンタルマジックの開店』

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1.『レンタルマジックの開店』

 ある日のこと何年も空いたままだった商業ビルの1階にテナントが入った。今の時代、どんなに真夜中だったとしても動きがあればSNSなどにあがりそうなものなのに、不思議と引っ越し業者が出入りするのも、事前情報も何もないままその店は営業を始めた。それなりに人通りが多い歩道に面した立地にも関わらず店主はやる気がないのだろうか。無機質な自動ドアに『レンタルマジック』と紫と黄色の2色で描かれた店名のみ。  自動ドアの中に踏み出せば月色のカウンターがデデンと待ち構えている。左頭上には料金表がぶら下がり、右側にはたくさんのアクセサリーがぶら下がるバーと机が目につく。客が戸惑っていると奥から黒と琥珀のオッドアイの青年が現れ妖しくも楽し気な笑みを浮かべる。  「いらっしゃいませ、魔法をお求めのお客様。どんな魔法が欲しいですか? えぇ、もちろん本物の魔法です。大抵の魔法はありますよ。1度は思うものではないでしょうか。魔法使いになりたいと。そんなに緊張する必要はありません。あくまでレンタルなのですから。条件はひとつだけです。使う魔法に責任を持つこと。守れそうですか? 守れるというならどうぞお好きな魔法をお選びください。あ、もちろん店の迷惑になるような使用方法を取られた場合は店よりペナルティがあります。条件とは違うのかって? 条件は魔法使用の約束、ペナルティはマナーですよ」  分厚いファイルを差し出され、その厚さにめげる人もいる。その時は店主が聞き取りをして選ぶ手伝いをする。  「返却に来る必要はありません。勝手に魔法は戻ってきます」  あとは魔法を借りたお客様がどう使うか。ただ、それだけ。
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