1章:初めましてが最悪だった。

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 怒りとショックが入り混じる複雑な気持ち。本当は物凄く責め立てたいよ、当たり前。  けれどそれを言葉にして『私はずっと好きだったのに』なんて言いたくない。そんな未練がましく言ったところで現状が変わるわけでもないし、余計に惨めになるだけだから。  もう、潔く良く身を引くしかないって……理解してる。   「……そういう事なんだね、わかったよ」  一言だけ、精一杯に声を絞り出した。  『わかった』って言いながら正直思う。負けたんだな、私はって。  気持ちが冷めたって言われるより、他に好きな人が出来たって言われる方が傷は深いものだって痛感させられたな。身体まで重ねてしまえば尚更―― 「ねぇ、凪?」 「……?」 「私は楽しかったよ、毎日がとても……」  『とても……』の後に言葉が詰まる。気の利いた事が言えれば良いのに、何も出て来ない。悔しさ半分、苛立ちが半分で泣きそうになってしまったのが本音。  指先が食い込んで痛いくらいに、私はグッと拳を握る。  素直に受け入れるほど苦しいものなんて、ない。 *** 「瑠歌、聞いてる?」 「あ、うん」  ……聞いてなかった。  私とした事がと仕事の話をしていながら、昨日の出来事をフラッシュバックするなんて。  でも頭に入ってくるわけない。だって無理よ。フラれた翌日で一緒に仕事とか。
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