因縁の交錯

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───... 「コリンズの奴、次は大尉だってよ。さっき中佐達が話してたぜ」 「まじか!ほんとにすげーな。まあでも、アルヴェニア戦すごかったもんな...納得だわ」 セントラルの軍の食堂。 どこからともなく聞こえたそんな会話に、ショーンは眉を顰めた。 「...コリンズ。あの魔族贔屓の若手か」 「最近よく名前を聞きますよねぇ。でもダグラスさん、貴方も次は少佐へ昇進。その若さでは異例なことですよ、流石としか言いようがないです」 「...ああ、いずれにせよ私には到底及ばない。しかし上も、人間でありながら魔族を贔屓にしている者を昇格させるなど、相変わらず本質が見えていないな」 「ええ、ええ。おっしゃるとおりです。きっとコリンズの奴も、いつかボロが出ますよ」 ショーンがノイに対して否定的な言葉を紡げば、ショーンの周囲にいた軍人達は揃って同意を示す。 アルヴェニア戦が終戦後、ショーンはあれよあれよと言う間に大尉の地位まで上り詰めた。 それもこれも、自分の力で成し遂げたことだ。 ダグラスの名が前提にあるとしても、父親の後ろ盾なくここまで来たという実感はあって、仲間達もそれを認めてくれている。 だからこそショーンは、最近よく耳にするノイの名についてさほど気に留めるようなこともなかった。 ◇◇◇ 「おいお前、蛇人族だろう。こんな所で何をしている?」 「...っ...、ダグラス...!....別に、俺はただ飯を食いに...」 食堂の端で見かけるようになった忌まわしい魔族の姿に、ショーンは迷うことなくそう声をかける。 ショーンを見た蛇人族の軍人は戸惑ったように瞳を揺らずが、震えた声のまま反論を続けようとした。 しかしそれも、ショーンの背後に控えていた仲間達によって制される。 「おい、立場を弁えろ魔族!この方はダグラス家のご子息、ショーン・ダグラスさんだぞ!職位は大尉。お前のような下級地位でその名を呼び捨てるなど、この俺が許さない!」 「...っ...、」 「ここは元々は人間の土地だ、飯を食うなら俺たちの見えない所で食いやがれ!」 仲間達の執拗なほどの攻撃にも、ショーンはその口端を上げるだけだ。 アルヴェニア戦の終戦を以て幕を閉じた人間と魔族の諍いも、形式的なものでしかない。 魔族と人間の共存など、見た目も能力もその考え方も異なる種族間同士では一生を掛けても理解できる日など来ないだろう。 「...っ...、だけど、俺も今はここの軍人、...飯を食うくらい..」 「黙れ魔族。視界に入るだけで不快だ、と言っているんだ。わかったら今すぐにここから出ていくことだな」 「...、」 それでも反論するように言葉を重ねる魔族に、今まで仲間達のやり取りを黙って聞いていたショーンも痺れを切らし強い口調で声を掛ける。 周囲にいる軍人達もそんな自分達に何を言うわけでもなく、ただただ視線を合わせないようにと黙々と食事を続けている。 そんな中、ふいに背後から声が掛かった。 「失礼。これは何事ですか」 「...ん?」 少年のあどけなさを残しつつも凛とした声の持ち主に視線を向ければ、そこには今まで噂でしか聞く事のなかったノイの姿がある。 ショーンはそんなノイに、やはり魔族贔屓という噂は本当であったかと言わんばかりに、蔑んだ視線を向けた。 「君はたしか、ノイ・コリンズか。別に何でもない。ただ少し、無礼な魔族に助言をしていただけさ」 「...無礼?彼が貴方がたに何か失礼を働いた、ということでしょうか」 「...おい、コリンズ!お前には関係のない事だろう、引っ込んでいろ!」 ノイはダグラスに対して淡々とまた質問を重ねてくるが、それもショーンの背後にいた仲間によって咎められる。 しかしそれでも、ノイは引き下がることをしなかった。 「関係ないことはありません。彼は私の直属の部下。部下の失態であれば、上官である私が責任を持って対処いたしましょう」 「...舐めた口を聞きやがって。ダグラスさんに逆らったら、お前の昇進の話などすぐにでも無くなるぞ!」 「...それが今何の関係が?」 「...は..?関係って...そりゃ...、」 想定外の返答に、仲間は面食らったように言葉を詰まらせる。 そして困ったように、仲間はショーンへと視線を向けた。 「...ダグラスさん..」 「は、もういい。こんなにも頭の悪い奴だとは思わなかったぞ、コリンズ。これ以上は時間が惜しい。行くぞ、お前達」 「...は、はい!」 ダグラスの名を出しても怯む事のなかったあの眼差し。 部下のことを種族関係なく大事に思っているようなあの素振り。 正義感に満ち溢れた、あの態度。 ...全てが愚かで、忌々しい。 ショーンは今まで噂でしか聞く事のなかったノイの存在を、そこで初めて「敵対心」という名の感情と共に認知することとなった。
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