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「...父上」
「...ショーンか。どうした?」
「お久しぶりです。今夜ランザスから戻られると母上から聞いて、その...」
「用件を話さないか。私はお前ほど暇ではないんだよ、ショーン。わかるだろう?」
「...っ...、申し訳ありません..」
久々に父がセントラルの屋敷に戻ると聞いて、任務の合間を縫って自宅でその帰宅を待った。
少しばかり年老いた父親の姿は昔から変わることなく、その冷たい視線にショーンは思わず謝罪を口にする。
用件が無ければ、話すことも許されないような関係。
しかしこれも今に始まったことではない。
自分を除いた兄弟達は今や父親の後を追い会社の経営に携わっているが、自分だけは違った。
───...お前は軍に入隊しろ。その方が色々と都合がいい。話はつけておく。
何度懇願しても経営に携わることを許されなかったショーンが、初めて父親から告げられた「期待」の言葉。
なんとしても期待に応えてやると、慣れない環境の中でもここまでがむしゃらに努力をしてきた。
そんな気持ちを内に秘め、ショーンは勇気を振り絞って部屋を出て行こうとする父親の背中に声を掛ける。
「...父上!...私は、週明けには少佐へと昇級することが決まりました...、それもこれも、貴方の期待に応えようと努力を続けてきたからこその成果...。ですからこの先も、さらに上を目指して、その期待を裏切る事のないように...」
「...期待?」
「...え..?...はい、」
「..クク...、そうか。本当にお前は...」
突然小さく肩を震わせて笑い出す父親に、ショーンは訳もわからないままに空気を読んで父親と同じく口元に戸惑いがちに笑みを浮かべる。
きっと、自分の力でここまでのし上がったことを嬉しく思ってのことだ。
いつだって自分に対して厳しいことばかり言う人だった。
しかしそれも、裏を返せば自分を思ってのこと、期待してのこと。
だからこそ、成果を出した息子の姿に───
「...何を勘違いしているのかは知らないが。ショーン、私はお前に期待などしたことはない。それはこれから先も同じだ」
「...は、?」
「お前の兄弟達は私の名に恥じぬほどの活躍をしているというのに、お前ときたら...。昔から何をさせても努力をした上で中の中。本当に、お前が私の息子であることを恥に思うしかない」
「...っ..」
───認められていたわけでは、なかった。
「それにお前の昇進の話だがな、あれは私から中将に話を通したんだ。お前の実力でその地位に行けるほど、軍は落ちぶれてはいないだろう。身の程を弁えろ」
「...」
「しかしまあ、今後お前には家のために動いてもらうことになる。それまでは自分自身を見つめ直し、少しでもダグラスの名に恥じぬよう実力を伴わせることだな」
あまりにも冷たすぎる言葉。
今まで目を逸らしてきた現実を、唐突に突きつけられる。
父親の冷淡な「嘆き」は、ショーンを絶望させるには十分だった。
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