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「ダグラスさん!先ほどアスリン中将に声を掛けられまして、この後部屋に来るようにと」
「...中将が?...そうか、わかった」
「はい。では私はこれで」
いつも取り巻きのようにショーンの後を付いてくる仲間の内の一人にそう声を掛けられ、ショーンは小さく頷いてみせる。
用件を伝え終えた軍人はそそくさとその場を後にすると、廊下の先で待っていた仲間の元へと合流して行った。
───...身の程を弁えろ。
...違う、違う...。
これは私の実力だ、父上はああ言ったが、それこそきっと、勘違いだ。
父上は私のことをわかっていない。過小評価しているんだ。
ダグラスの名など関係がない。あるはずがない。
ショーンは昨夜父親から言われた言葉を脳裏に浮かべるが、それも必死に否定するように拳を固く握り込む。
努力だってしてきた。功績だって残してきた。
仲間だって、認めてくれている。
───
「ダグラスの奴、中将に呼ばれたんだろ?」
「...ああ。今の時期で言えばきっと昇進の話じゃないか?」
「はは、もしかして昇進は無しになりました、とか?あいつ、実力もないのに家の力で今の地位までコネでのし上がった、『ダグラス家の落ちこぼれ』だもんな」
「...おい、そのへんにしとけよ。今あいつに媚び売っておけば将来にきっと役立つんだ。くれぐれも余計なこと言うんじゃないぞ」
「ああ、わかってるって。でも大丈夫だろ、あいつ───」
───自分の実力だと、勘違いしていることに気付いていないし。
「...っ...、...」
普段なら、そんな言葉も自信に満ちた状態で真っ向から否定できただろう。
しかし、今は違う。
父親から掛けられた冷徹な言葉が再び頭の中を巡り、仲間だと思っている周囲の人間からも陰でそう囁かれている。
「...これは、私の実力だ..、そうに決まってる..」
今まで気にも留めなかった噂話が、ショーンの心を深く抉る。
それを否定するように小さく呟かれた言葉も、どこか自信のなさが表れていた。
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