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「...アスリン中将。ダグラスです。話があると聞いて伺いました」
「遅かったな。構わない、入れ」
「...はい」
傷心のまま立ち直ることなどできず、しかし上官の呼び出しを見送ることも許されるはずもない。
ショーンは重い足取りで自身を呼び出したアスリンの部屋へ向かうと、いつも通りの厳格な声色で部屋の中から返答がある。
入室の承諾を得たショーンは、恐る恐ると言った具合でその重厚な扉を開く。
仲間達が陰で囁いていたように、昇進に関する悪い話だろうか。
ショーンはそんなことを考えながら部屋へと足を踏み入れるが、その瞳はすぐに驚きに見開かれることとなった。
「...っ...、コリンズ...、」
「...どうも、昨日ぶりですね」
「ダグラス、早くここへ来い。話を始める」
「...は、はい!」
何故こいつがここに。
一体何のために自分はここに呼ばれたのか。
予期せぬノイの存在に、ダグラスは昇進の話とはまた別の不安に襲われる。
しかしそれも、アスリンの低く威圧感のある声で中断された。
「お前達をここに呼んだのは、明日セントラルを訪れる予定となっている南部の重役、ドリスト・フィン氏の護衛任務に就かせるためだ。コリンズ、ダグラス。お前達は直近で昇進の話も挙がっているだろう。今後関わることも多くあるだろうから、今回の任務で互いのことをよく知り合うといい」
「...し、しかし中将...、何故この私がコリンズなどと...」
「なんだ、何か文句があるとでも?理由は今話した通りだ。任務は明日の夜から。この書類に詳細を記してある。早急に目を通しておけ」
「...、はい」
冗談じゃない。
何故、この男と同じ任務に就かなければならないのか。
互いをよく知る?そんなもの、必要がない。
ショーンはアスリンに咎められ言い掛けた言葉を噤んだものの、内心穏やかではいられない。
ちらりとノイに視線を向ければ、その冷めた菫色の瞳は自身を真っ直ぐに見据えていた。
「...ダグラス大尉、今回はよろしくお願い致します。せっかくいただいた機会です。任務の遂行以外にも、互いに意味のあるものにしましょう」
「...っ...」
手本のような言葉を掛けてくるノイに、またもや心が乱される。
ショーンは昨日のことなどなかったかのように友好的な態度を示すノイをきつく睨みつけ、机の上に置かれた任務に関する書類を掴み取ると、すぐさまノイに背を向けて部屋を出た。
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