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「にしても冷えますね。中尉寒いの苦手でしょう、俺のコート貸しましょうか?」
「...余計な心配をするな。今日は夜通しの任務になることも踏まえてちゃんと着込んできている。...ほら」
「うわ、そうやって俺に見せてくれるのなんか年相応でいいっすね。可愛いや」
「...ルーカス、任務に集中しろ」
ノイはあの後、何か思い詰めた様子のショーンを気に掛けながらも、自身が検討した計画通りに任務に当たっていた。
屋内とはいえ真冬の寒さは身に応えるが、それでも気を抜くようなことはしない。
「...そういえば。ドリスト・フィンと言えば、ひと月ほど前にネストリアの街を配下に治めたんでしたっけ。南部の事案なのにセントラルからも騒動を収めるために人員が駆り出されたってガラフさんが嘆いてましたよ」
「...ああ。あそこは元々妖魔を中心とした魔族の街。随分と強引なやり方で市政を牛耳ったそうだが、反感も存分に買っているだろうな」
「ほんと、金と権力のためだけに動く奴らが多すぎますね。今に始まったことじゃないですけど」
───ネストリア。
つい最近までは、妖魔族の族長であるガルネ・プレストンが街の最高権力者であった。
しかし長年街を治めてきたガルネも高齢となり、以前と比べ如実に力が衰えた。
そんな脆弱な体制に付け入るようにドリストが政治に口を出すようになり、ついひと月前に街はドリストの手中へと治まることとなった。
ルーカスが言っていた通り、どこぞの馬の骨かもわからない人間が自分たちが長年守り抜いてきた土地に土足で踏み入ることに、多くの市民たちは反対をした。
それは話し合いなんていう生優しいものでは済まず、今までの人間と魔族の対立を物語るようにして死者まで出す騒動へと発展した。
「...今回の任務が『形骸的な護衛』に留まればいいが...」
「まあ、いざという時は俺が何とかしますから。中尉はどんと構えててくださいよ」
懸念のように呟かれたノイの言葉にもルーカスはからりと笑い、ノイの肩に優しく手を置いて見せる。
随分と頼れる存在となった部下に、ノイはどこか救われるような気がした。
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