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「コリンズ、状況を報告しろ」
「...はい。現時点では街の警備にあたっている定例隊からも問題の報告は特段なく、ホテル内でも目立った動きはありません」
「...は、そうか。それならいい」
ノイからの平穏な状況報告に、だから言っただろうとでも言いたげな顔でショーンは相槌を打つ。
ルーカスはそんな二人のやりとりを横目に廊下の隅に控え、周囲の気配に目を光らせていた。
そんな時、護衛対象であるドリストの部屋の扉がゆっくりと開く。
「...フィン様、どうかなされましたか」
「ああいや、な。...なかなか寝つきが悪くて、この辺りでひとつ癒しを求めたいなと」
「...癒し...ですか?」
「たしかこのホテルの裏手に風俗街があっただろう。そこから女を寄越してくれ」
「...」
ドリストは自身の置かれている状況をわかっているのだろうか。
その言葉を聞いた瞬間、ショーンは立場を弁えない危機感のなさに思わず眉を顰める。
しかし奇襲など掛けられることはないと考えているのは自分も同じ。
大事なクライアントの要望であれば、多少大目に見てやるに越したことはないだろう。
「...承知致しました。すぐに手配しましょう」
「おお、そうか。それは助かる。若くて可憐な人間を頼んだぞ!」
「大尉..!私は反対です。自ら懸念材料を増やすなど言語両断...」
「なんだ、若造。この俺に意見する気か。懸念だろうがなんだろうが、それを踏まえた上で命を張って俺を守ることがお前たち軍人の仕事だろう。気安く口答えするんじゃない」
「...」
「コリンズ、フィン様のおっしゃる通りだ。向こうで警備にでも当たっていろ」
ドリストの言葉に想定通りの反応を示すノイに、ショーンは呆れた様子でその肩を押す。
ノイは呆気に取られたように一瞬目を見開くが、すぐに諦めた様子でルーカスの元へと戻っていった。
「フィン様、貴方のことは私達が責任を持ってお守りしますので、どうかご安心ください」
「おお、いいねぇ。今時の軍人は融通が効いてなんぼってもんよ。さすがはあの名家のダグラスの出なだけある、賢いようだ」
「...いえ、滅相もございません」
「このことは君の父上にも伝えておくよ。しかしあの若造...世間を知らぬとは悲しいことかな。きっと今後淘汰されていく運命だろう」
ドリストはニヒルな笑みを浮かべながらそれだけを言い残して、再び部屋の中へと姿を消す。
ショーンは小さく溜息をついて、本来軍人である自分の仕事ではないはずの「クライアントの要望」を叶えるために、フロントのある下の階へと足を向けた。
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