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パーティーも終盤。
今はドリストがデイビッドに再び声を掛けて、会場とは別の一室に篭っている。
先程ショーンを嘲笑うかのように声を掛けてきた兄弟達は不在の父親の代わりにパーティーの参列者達に応対していて、ショーンは任務のためにドリスト達のいる部屋の前で警備に当たっていた。
「コリンズ、ここはいい。フィン氏は今日は南部には帰還せず、もう一夜セントラルに宿泊するとのことだ。滞りなく進むよう、手筈を整えておけ」
「...はい、承知いたしました」
ノイにそれだけ伝えこの場を去っていく後ろ姿を見届けてから、ショーンは時折部屋の中から聞こえてくるドリストの特徴的な笑い声に小さくため息を吐いた。
「そうそう、ダグラスさん。貴方のところのご子息のことですが。ほら、今私に護衛でついてくれている」
「...ショーンか」
しかしそんな時、扉越しに自分の名前が呼ばれるのが聞こえ、体がこわばるのを感じる。
ただその先の内容が気になり、ショーンは駄目だと分かっていながらも、暗い廊下で静かに聞き耳を立てた。
「...あの若さで次は少佐に昇進だとか。いやほんとに、さすがとしか言いようがありませんね。今後もぜひ見守らせていただきたいところです」
「...ああ。あいつには『重要な役目』があるのでね」
「...役目、ですか」
「そうだ、例の計画の件。あれは今後、軍にも我々の息のかかった人間を置いておく必要がある。ショーンにはその役目を担わせるつもりだ」
「...ああ、なるほど。それはそうですね。さすがはダグラスさん、先見の明をお持ちで」
───...例の計画?
ショーンは父が口にした聞きなれない単語に、いったい何の話をしているのだろうかと眉を顰める。
しかしその「計画」についてはドリストも知っている様子で、すぐさま媚びるような相槌が打たれた。
「実を言うと既にアンダーソンくんが動き出している。南部のフィラネル、あの街の利権を有することは研究資金の調達には欠かせないものだ。そういえばフィンさん、貴方も最近南部でその力を強めているだろう。是非とも力を貸してくれないか」
「ええ、もちろんですよ!私も金になる話、そしてダグラスさんからのお話であれば喜んで協力させていただきます!...そしてこの研究が進み、薬が完成した暁には...」
「ああ、わかっている。貴方にもすぐに声を掛けよう」
...先程から、研究だの資金だの薬だの、一体何の話をしているんだ..?
ショーンはわけのわからぬ突飛な話に、何かとてつもなく嫌な予感が脳裏を過ぎる。
そしてその予感は、父親から発せられた言葉によって確信へと変わった。
「...犠牲者が出ようとも、軍が揉み消すと合意は取れている。多少強引なやり方でもいい、必ず資金の調達を成功させるように頼むぞ」
「それなら安心ですね、承知しました!南部に帰還次第、最優先で取り掛かるように致します!」
...犠牲者。
軍が揉み消す───
事情を知らぬショーンにも、これが良からぬことを画策しての会話だということはすぐに分かった。
それと同時に、父親が何故自分を軍に入隊させ、昇進に関する口添えをしているのかも悟る。
「...私は、父上に...」
───利用されていたのか、
少しすれば部屋の中からはドリストの下品な笑い声が響き、ショーンはずるずると背中を壁に伝わせて、力無くその場に蹲った。
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